Beer&Life Style Fashion編 ビールとフーデッドパーカーのペアリング
ビールのペアリングはフードだけではない。
どんな装い=ファッションで、どんなビールを飲むか……。
それが「ビールとファッションのペアリング」だ。
第12回目は【ビールとフーデッドパーカー】のペアリングをお楽しみいただきたい。
フーデッドパーカーにトラピストビールとアビイビール
目次
秋から初冬にはフーデッドパーカー。
寒くはなってきたが、冬物のコートはちょっと早いなぁ……。という季節に活躍するのが、フーデッドパーカーだ。
フードをかぶれば寒さをしのげるし、小雨程度なら傘なしで大丈夫である。
フーデッドパーカーとフーディの違いは ?
ところで、最近『フーディ』という言葉を耳にしたことはないだろうか?
実のところ、『フードの付いたスウェットシャツ』を『フーデッドパーカー』と呼ぶのは日本だけとのことである。
海外のショップで「フーデッドパーカーをください」と店員に告げると、満面の笑みを浮かべながら『マウンテンパーカーなど、フードの付いた上着』を持ってきてくれるに違いない。
パーカーの語源は、アラスカのイヌイットが着ていた防寒性の高い毛皮の上着”parka=パーカ”と言われている。頭を覆うフードが付いているのが一般的だったので、フード付き上着をパーカーと呼ぶようになった。
私たち日本人が『フーデッドパーカー』と呼んでいるアイテムは、海外では『フーデッドスウェットシャツ』または『フーディ』と呼ばれている。
そしてすでに、日本の一部のショップや通販サイトでは『フーデッドパーカー』ではなく『フーディ』と表記されている。
フーデッドパーカーはフーディがグローバルスタンダードなのである。
とは言え、まだそれほど一般的ではないので今回は『フーデッドパーカー』で突っ切りたいと思う。笑
フーデッドパーカーはヨットパーカー?
フーデッドパーカーと言っただけでも、オジサンオバサンという烙印を押されかねない時代だが、さらに歴史を遡ると『ヨットパーカー』などと呼ばれていた時代もあった。1970〜80年代のことである。
今『ヨットパーカー』と言えば『ゴアテックスなどが使われたフード付きのショートジャケット』を意味することが多いが、アマゾンや楽天で『ヨットパーカー』を検索するとそれなりの点数のフーデッドパーカーがヒットするので、死語ではないようだ。ま、絶滅危惧語といったところであろう。
以前は『ヨットパーカー』と呼ばれていただけあり、マリンルックとの相性はとても良い。
フーデッドパーカーはビール業界の人気アイテム
今や、ブルワリーグッズが無い醸造所なんてありえない! と思う。
Tシャツやキャップ、ワークシャツなどに加え、フーデッドパーカーは非常に人気が高いアイテムだ。
と言うか、フーデッドパーカーはブルワーの制服なの? と思うほど多くのブルワーが着用している。
ブルワーっぽく着こなせば、ハズすことはない。
ただ、このような着こなしをしていると、ビアパブやビアイベントで「〇〇ブルワリーのブルワーさんですか?」と声をかけられることがあるので要注意だ。
まずはロッキー
ところで、フーデッドパーカーはいつ頃からファッションアイテムとなったのだろうか?
フーデッドパーカーは1930年代にアメリカでスポーツウェアとして販売され始めた。
この当時は、日本でいうところの「体操服・ジャージ」という位置付けだ。
このスポーツウェアが市民権を得たのは、1976年に公開された映画「ロッキー」といえる。
シルヴェスタ・スタローン演じる主人公ロッキー・バルボアが着ていた霜ふりのフーデッドパーカーとパンツは印象的だった。
とは言え、まだ「スポーツウェア」の領域から脱却できてはいなかった。
さらにヒップホップ
この単なる「トレーニングウェア」を「ファッションアイテム」に仕上げたのが、ヒップホップ業界だ。
1980年代にはRun-D.M.C.に代表される「スポーツウェアを取り入れたB-BOY系」が、1990年代後半にはWU-TANG CLANなどの「ルーズフィットのバギー系」といった装いがフーデッドパーカー をタウンウエアに定着させた。
そして渋カジ
ヒップホップ系のおかげでスポーツウエアからタウンウエアに昇格したものの、体育会とコアなミュージックファンのウエア止まりだった。
それを一般的なファッションアイテムとして拡散されたのは、やはり渋カジのおかげと言える。
渋カジとは、渋谷カジュアルの略で、1980年代後半から90年代前半に渋谷界隈で発祥した着こなしである。
デビュー当時のキムタクや江口洋介の着こなしがその典型と言っていいだろう。
ジーンズやネルシャツ、トラッカーズキャップといった「アメリカの労働者層が着る服」をタウンウエアとして取り入れ、フーデッドパーカー も重要なアイテムのひとつだった。
女性こそフーデッドパーカーを
フーデッドパーカーはカジュアルになりがちなので、フェミニンな女性は敬遠しがちだ。
しかし、女性にこそ着て欲しい。
まずは、(ややベタではあるが)オーバーサイズのフーデッドパーカー を少女っぽく着てみたい。
ブカブカの身頃、手がかすかに出るくらいの長い袖、ミニスカート感覚の裾。
この「あざとさ」を照れずに着こなすのがポイントである。
さらに、ちょっとお姉さんっぽい着こなしにも挑戦しよう。
スポーツ感やラッパー感を抜きつつ、軽やかに着こなしたい。
テーラードジャケットやタイトスカートといった”オフィシャルな仕事服”にフーデッドパーカーを刺しこむことで、変化が生まれる。
フーデッドパーカー には修道院のビール
イヌイット、マリンルック、ロッキー、ラッパー、渋カジ……と、フード付きウエアがあるなかで、忘れてはならないのが、修道僧の僧衣である。
なぜ、修道士がフード付きの服を着ているのかは「寒かったから」「雨がよく降ったから」の他に「糞尿を窓から外に捨てていた時代にそれらを避けるため」といった説まで多々あり、正解は定かではない。
最後の糞尿説は修道士に限らず「避けたい!」ので、「だったら全員フード付きを着るやろ!」と突っ込みたくなる。
やはり、防寒や雨よけのためにフードが必要だったのだろう。
たしかに、フーデッドパーカー を着る季節は、急に冷え込んだりすることが多い。
そんなとき、フードをかぶると頭部や耳が守られて暖かい。
また、多くのフーデッドパーカーに は、お腹のあたりにポケットがあり、これは物を入れるためではなく手を温めるためと言われている。
フーデッドパーカー のように、体が冷えたとき助けてくれるのがハイアルコールビールのトラピストビールやアビイビールだ。
トラピストビールやアビイビールは、中世から修道院で造られていたビールやそのレシピを踏襲したビールである。
日本ではお酒がご法度の宗派が多いため、修道院でお酒を造っていることに驚く人も多いと思うが、
- 断食を行う際の栄養補給。
- 巡礼者をもてなすため。
- 修道院の修復費などの現金収入を得るため。
といった目的で、修道院では醸造が行われていた。
フーデッドパーカーを着て、滋養強壮に使われていたトラピストビールやアビイビールを飲むと、疲れた体も心も清らかに温まり、修道僧のような崇高な気持ちになれるに違いない。
トラピストビールとアビイビールの違いは?
トラピストビールは、国際トラピスト協会(ITA)の呼称であり、以下の条件を満たしていなければ、名乗ることができない
- 醸造所が修道院の敷地内にある。
- 修道士が自ら醸造するまたは監督のもとで醸造されている。
- 営利目的ではない。
条件を満たせなくなった場合、トラピストビールの呼称は剥奪されるので「トラピストビールの数はいくつ?」というクイズの答えは時代によって違う。
日本ビール検定(通称ビアけん)を受ける人は、毎年「国際トラピスト協会(ITA)のサイト」をチェックしてから受験することをお勧めする。
それに対して、ITAの条件を満たしていないが、修道院で造られていたビールを継承しているのが、アビイビールである。
修道院外の醸造所に醸造を委託しているビールなどがそれにあたる。
トラピストビールはビアスタイルではない
トラピストビールとアビイビールはビアスタイルではない。ということも伝えておかなければならないだろう。
トラピストビールやアビイビールには、ダブル、トリプル、ストロングダークエールなど様々なビアスタイルが存在し、ひとくちに「トラピストビール、アビイビール」といっても色や香りや味わいには広い幅がある。
ここらへんも戸惑うところだが、ビアスタイルガイドラインなんて考え方が生まれる前から、神のおぼしめしのままに醸造されているのだからしょうがない。アーメン。
ウエストマール・トリプル
ウエストマール修道院は1836年から修道院内で飲むために醸造を始め、1856年にウエストマール村内に、1921年には広域に販売を始めた。
ウエストマール・トリプルは典型的なトリプルである。
というか、ウエストマール・トリプルがトリプルのスタイルガイドラインを作ったのだ。
ウエストマール・トリプルが登場する以前、トリプルは濃色系のビールだった。
ところが、ウエストマールが淡色のトリプルを造ると大人気になり、他の修道院、醸造所も淡色系に変わっていった。
ウエストマール・トリプルこそ、元祖トリプルだ。
藤原ヒロユキ テイスティングレポート
黄金色のビールに純白の泡がホイップクリームのように盛り上がる。
オレンジ、洋梨、クローブ、キャンディーシュガーのようなフレーバーが心地よい。
まろやかな口当たりなのでアルコールの刺激をほとんど感じないが、喉を通って胃に落ちていくと、じんわりとアルコールの温かみを感じ、度数9.5%のビールであることを思い出させてくれる。
後口にはフルーティーな残り香と共に上品なホップの苦味もほのかに現れ、ビールとしての魅力を主張する。
セント・ベルナルデュス・アブト12
トラピストビールのひとつウエストフレテレン・アブトを醸造するセント・シクステュス修道院は、最低限の醸造しか行っておらず、流通量が少ないため「幻のビール」と言われている。
1946年、セント・シクステュス修道院はセント・ベルナルデュス醸造所にレシピを提供し「外販用のウエストフレテレン・アブトを醸造してよい」というライセンス契約を交わした。
その後、セント・シクステュス修道院の醸造設備が拡張し、1992年に契約は解除されたが、セント・ベルナルデュス醸造所はアブト12を販売し続けた。
この際、僧侶のイラストのラベルが問題視されたのだが、細部を修正し「フード付きのマントを着たハゲの一般人」のイラストと主張し、今も販売している。
弁明は、やや苦しいと感じるが、長年にわたりアブトのレシピを守り続けてきたことを考えると、神もお許しになるのではないか。と思う。笑
個人的には、こーゆーユーモア(?)は好きだし、幻のビールが日常的に飲めるということに神のご加護を感じるのだが……。笑
藤原ヒロユキ テイスティングレポート
深みのある赤みがかったダークブラウン。
ローストモルトの香りにイチジク、洋梨、プラム、レーズンなどを思わせるアロマが複雑に絡み合う。
モルトの甘味とアルコールの温かさも加わり濃厚でリッチでフルボディ。
まさに、「飲みごたえ充分」「ゆっくりと時間をかけて楽しみたいビール」である。
煮込み料理やジビエ、ドライフルーツやブルーチーズといったしっかりとした味わいの料理や食材に合うのはもとより、食後酒、締めの一杯、ナイトキャップにも適している。
それでは、Cheers!
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。