[コラム,テイスティング]2023.11.7

【環境ペアリング06】 那須高原ビール「ナインテイルドフォックス」×秋夜の焚火

クラフトビールにフードを合わせるフードペアリング。
ビールにちょっと組み合わせることで、おいしさがググっとアップします。

でもおいしさの相乗効果を引き出すモノって、食べ物だけじゃない。
天気だったり、店の雰囲気だったり、一緒に飲む人だったり、会話だったり。
どんな“環境”で飲むかでビールは感じ方が変わります。
当ビアジャーナリスト協会代表の藤原ヒロユキが、それを「環境ペアリング」と命名。
これを私はもっともっと追及していきたいと思います。

今回、環境ペアリングさせたのは那須高原ビール「ナインテイルドフォックス」と、秋夜の焚火です。

林に佇む美術館のような醸造所

栃木県・那須町は温泉や高原リゾート、御用邸などで知られる保養地。
都心からは新幹線で2時間、車なら2時間半。週末旅ールもできてしまう立地なのです。

黒磯駅からバスで10分の「下松子」停留所で下車し徒歩2分。車なら東北自動車道「那須IC」から2分

那須高原の静かな林の中に佇んでいるのが、那須高原ビールの醸造所と併設レストラン。
木々と石柱の奥に見え隠れする建物は、まるで美術館のよう。

店内に入ると、まず発酵タンクが目に飛び込んできます。木を基調としたフロアとピカピカのタンク。アートな空間だから、タンクもアートに見えてきます。

愛、ヴァイツェン、スコティッシュエールなどの定番ビールや季節限定ビールがイタリアン料理と共に楽しめる


レストランからもカウンター越しに醸造所を見ることができます。
地元の食材をふんだんに使用したイタリアン料理とビールの愛称は言わずもがな。

今回はレストランで堪能したペアリングは割愛して、ショップで目的のビールを買い込んでキャンプ場に向かいます。
「那須高原オートキャンプ場」は醸造所からは歩いて20分ほど。
秋の日暮れは早く、ディナーのあとは真っ暗。街灯のない道を、懐中電灯を頼りにキャンプ場に戻ります。
時折、明かりを消して月光が照らす草木の凛とした美しさを確認しながら歩くのも良いものです。

秋の夜はキャンプビールをおいしくする

10月下旬。高原性の冷涼な気候にある那須の秋は深まりをみせています。
乾燥した冷たい空気を押しのけるように、焚火の炎は秋の夜を温めてくれます。
薪の爆ぜる音や、遠くで聞こえる虫の声や足元でカサカサと鳴る落ち葉の音。

表面を焦がしたマシュマロとのペアリングはテッパン

自然の音をBGMに、今夜ペアリングするビールは那須高原ビールの「ナインテイルドフォックス」です。
製造した年のビンテージが付き、毎年陶器のボトルでリリースされるビールですが、数量限定で150mlのミニボトルでも販売されています。

年月を経るごとに味の深みが増すヴィンテージビールは、自分で熟成させるという楽しみがあります。年月を重ねる楽しみがあるものの、飲むタイミングを考えてしまい、なかなか開栓できない私なのですが、ミニボトルならその時の味を臆することなく堪能できそうです。

心地よい酩酊と共に立ち上る炎が九尾の狐のしっぽにも見えてくる


今年ボトリングされたばかりのナインテイルドフォックスはまだ若いとはいえ、麦芽の香ばしさと高アルコールがもたらす甘い香りの一体感があり、奥行きがあります。ひと口目は花束のような華やかな香りで、素直にスーッと喉を滑り落ち胃を温めてくれます。グラスを手で包み液体の温度を上げると複雑さと重厚感が増しポートワインのような複雑さと甘味も顔を出します。

高原の夜はシンシンと冷たい空気が押し寄せてきます。じわじわとジャケットの上から侵食してくる冷気に負けないよう、火に薪をくべ火吹き棒で風を送ります。

そして、ビールをもうひと口。

そのひと口は、スモーキーでほろ苦い味わいが加わり、火入れされたウイスキー樽で熟成されたかのような焦げ感とウッディな重厚感に変わっていました。
火吹き棒を咥えたことにより、舌の上に残った煙がヴィンテージビールにスモーキーな深みを与え、豊潤で華やかな世界をみせてくれました。

味覚を刺激するのは食べ物だけではなく、口の中に入り込んでくる空気の温度や煙も味覚を刺激してくれます。
葉巻とウイスキーとのマリアージュを嗜む文化があるように、「ナインテイルドフォックス」と焚火の煙を楽しむ時間は、人生に彩りを与えてくれそうです。
秋の那須という環境を丸ごと味わう“環境マリアージュ”が完成しました。

那須の自然と職人が生み出した芸術作品、那須高原ビール

那須高原ビールは、1996年に誕生したクラフトビール醸造所。那須連峰の深山の雪解け水で仕込んだビールは、国内外のビアコンテストで高い評価を得ています。


那須高原ビール
栃木県那須郡那須町大字高久甲3986
■ショップ
営/10:30~19:00
■併設レストラン
営/11:00 ~19:00(平日14:30 ~15:30はお昼休憩)
休/水曜

http://www.nasukohgenbeer.co.jp/

左)ナインテイルドフォックス2010、右)ナインテイルドフォックスミニボトル2022

「ナインテイルドフォックス」
醸造所:那須高原ビール
スタイル: ヴィンテージビール
アルコール度数: 11%

「ナインテイルドフォックス」の名前の由来になった九尾の狐は、9本の尾をもつ狐の妖怪・聖獣。那須にも九尾の狐の伝説が残っており、那須湯本温泉近くにある「殺生石」は、悪行を繰り返し退治された狐が毒岩に姿を変えたものという伝説がある。現在も周囲は毒気(硫黄の香り)が漂う

ナインテイルドフォックス九尾の狐栃木県焚火環境ペアリング那須高原ビール

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

アバター画像

この記事を書いたひと

コウゴ アヤコ

ビアジャーナリスト

1978年東京生まれ。看護師を経て、旅するビアジャーナリストに転身。旅とビールを組み合わせた「旅ール(タビール)」をライフワークに世界各国の醸造所や酒場を旅する。ドイツビールに惚れこみ1年半ドイツで生活したことも。『ビール王国』(ワイン王国)、『ビールの図鑑』(マイナビ)、『BRUTUS』(マガジンハウス)など様々なメディアで執筆。

最近はキャンプとサウナにドハマり中。そこにもやはりビールは欠かせない。最高の「ビアキャンプ」&「ビアサウナ」を求めて、日本全国津々浦々旅をしている。

■執筆歴■
-海外生活情報誌ドイツニュースダイジェストで「旅ールのススメ」連載中
ビール小話 (ドイツニュースダイジェスト)2009~16年連載
-東海教育研究所かもめの本棚onlineにて「旅においしいビールあり」
-クラフトビールで乾杯!(日本トランスオーシャン航空機内誌Coralway2020年9.10月号特集)
-ビール王国(ワイン王国)
-ビールの図鑑・クラフトビールの図鑑(マイナビ)
-BRUTUS(マガジンハウス)
-an・an(マガジンハウス)
-CanCam(小学館)
-DIME(小学館)
-東京人(都市出版)
-るるぶキッチンmagazine 秋冬号(JTBパブリッシング)
など
■出演歴■
-アサデス。7(KBC九州朝日放送)
-KURASEEDS(J-WAVE81.3FM)
-食べて!歌って!まるごとユーロ!ドイツ語(NHKラジオ第2)
-トークイントーク(フレンズFM)
-売れ筋RANKING~クラフトビール(KTSライブニュース)
-よじごじDays(テレビ東京)
など

ストップ!20歳未満者の飲酒・飲酒運転。お酒は楽しく適量で。
妊娠中・授乳期の飲酒はやめましょう。