【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~㉕ 泥酔蘭学者、ホップを知る 其ノ弐
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です
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「それで、なおの国ではほっぷをどうやって入手している?」
「そうだな……自分たちの国で栽培もしているけど、基本は海外から買ったものを使うことが多いかな」
「海外、とはなんだ?」
「海外っていうのは……」
喜兵寿は声低く次々と質問してくる。その真剣な声は少し怒ってるのかな?と思うような圧があったが、それに反して目はキラッキラに輝いていた。
どうやらビール造りが楽しみすぎて、わくわくを抑えようとぶっきらぼうになっているらしい。
喜兵寿はひとしきり質問し、少し考えた後にこういった。
「この国のものでないのであれば、やはりここは幸民先生に聞くのが一番いいと思う」
「ああ、あの飲むと人が変わる面白いおっちゃんね。でもなんであの人に?」
大酒を飲み、「虎モード」になった幸民を思い出し、なおはにやにやしながら言った。
「なんでって……この間も説明しただろ。幸民先生は蘭学者だからだよ」
「そうだったっけか。ってか、らんがくしゃってなんだ?」
「正直俺もわからない部分が多いんだが……蘭学者の先生たちは、海の向こうの国の学問を学んでいるらしい」
喜兵寿は煙管をくゆらせながら、記憶の破片をつないでいく。
「幸民先生は、たしか『おらんだ』という国の言葉を読み書きできるとか言っていたかな。それを使っていろいろなことを研究していると聞いたことがある」
「ひょっとしてオランダのことか?!確かにそれは何か知っているかもしれないな」
「そうそう!幸民先生、ああ見えてものすごくいろんなことを知っているんだから……ってあれ??」
笑いながら合いの手を入れたつるが、ハタと言葉を止める。
「あれ?お兄ちゃんたち、今日の午後幸民先生に会いに行くって言ってなかったっけ?」
「……しまった!」
喜兵寿が慌てて立ち上がる。
「そうだ、源にいのことですっかり忘れていた」
「確かにそんなこと言ってたっけな。でも今日はもう夜になっちまったし、酒も飲んでいるし明日行けばいいだろ」
何時かわからないが、店の外は「午後」と呼ぶには明らかに暗さだ。しかし喜兵寿は素早く身支度を整えると、のんびりと座っているなおの襟首をつかんで立ち上がらせた。
「なお、いまからいくぞ!」
「はあ?!何言ってんだ?!別に明日でいいだろ」
「明日じゃだめなんだよ」
「なんでだよ、決起会だろ。もう酒飲み始めてんだから明日にしようぜ」
「なんでって……幸民先生なら家に火をつけかねないからだよ!」
予想もしていなかった返しに、なおは自分の耳を疑った。
「火?!」
「そうだよ!『幸民との約束は破るべからず』。火をつけられるくらい、まだかわいいもんだ。過去約束を破って散々な目にあったやつらを知ってる」
「げ……まじかよ完全にやばい奴じゃん」
なおはじりじりと後ずさりをする。
「ってかそんなん行くのやだよ、おれ」
「ぐちぐち言ってないで。はい、これ持って!」
逃げ腰のなおに、つるが日本酒の入った大きな徳利を3つ渡す。
「言っとくけど、昨日『幸民先生の弟子になる』って言ってたのも、約束にあたるからね。じゃあ頑張って」
「いや、それは酔っぱらって向こうが勝手に言ってただけで……」
「細かいことはどうでもいい!ほらさっさと行くぞ」
「まじかよ。いや、なんかちょっと腹の調子が」
喜兵寿は嫌がるなおの腕をつかむと、「後は頼んだ」と店を飛び出したのであった。
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
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