【本気テイスティング】秋〜冬発売 大手の新製品レポート②
※この記事は 【本気テイスティング】秋〜冬発売 大手の新製品レポート① の続きです。
10月〜12月にかけて日本の大手4社から新製品が大量にリリースされました。
これから発売される予定の商品もありますが、ビールの審査会JAPAN GREAT BEER AWARDSの審査員経験がある筆者が、
一部ではありますがテイスティングと紹介をしていきます。
※大手4社とは「アサヒ」「キリン」「サッポロ」「サントリー」またはその関連会社を指します。
目次
キリン
本麒麟 味わい濃厚 冬仕立て
色:ゴールド
泡立ち:良好
度数:6%
【背景】
11/28発売の限定商品。前後半含めての唯一の「リキュール②」ということで所謂「新ジャンル」商品。
酒税の税率統一の件をご存知であれば、発泡酒や第三のビールなどは今後縮小に向かうこと必至です。そんな中でのリリースですので、全社から売れ行きは注目されてるでしょう。
ゴールドのパッケージは高級感がありますが、価格は本麒麟既製品とほぼ変わらず家計には有り難いです。
【テイスティング】
非常に残酷であり、非常に高い技術を持つ商品です。
今回記事執筆に当たり、最も筆者の満足度が高かった商品でした。
リッチでフルーティ、パパイヤのような風合いを新ジャンルでここまで醸せているのはすごいです。
ビールテイスト製品自体へのネガティブなイメージを薙ぎ払うような飲みごたえは、むしろクラフトしか飲まない方にも一度飲んでいただきたいとすら思いました。
炭酸が持続しないせいか、リキュールらしいケミカルでベタッとした甘味がベッコウ飴のように感じさせますが、
じっとりと続く苦み、6%のボディと適度なコクが「ビール」ではないことを忘れさせます。
これが300円台?
ホップとモルトのレベルの弱さを除けば、マイクロブルワリーのIPAと言われても気づかないのではないでしょうか。
【追記】
そうなると、「我々がビールを飲んでいるときに期待しているものは一体何だったのだろう」という疑問が徐々に湧いてきます。
とても残酷な難問を突きつける、実にエポックメイキングな商品です。
ラガーリングを1.5倍に伸ばし熟成を高めたこと、CMでの新たなタレントの起用などを鑑みても、税制統一前の消化試合ではない本気度が伝わってきます。
スプリングバレー アフターダーク
色:見通せない深い焦げ茶
泡立ち:普通
度数:6%
【背景】
12/5発売の冬季限定商品。ご存知キリン社のクラフトラインからの新作です。
そして、代官山にSPRING VALLEY工場が立ち上がった初期から造られていた黒ビール「インザダーク」という名称から後に変更となった「アフターダーク」と同じ名前を冠しています。
HPでも以前から明記されていますが、実は乳糖使用&下面発酵という非常に珍しいスペックのビールです。
【テイスティング】
正直おいしい。深煎りコーヒーアロマ。酸味もなくロースト加減とアタックが丁度よい。
加糖しているため甘味は滑らかですが、バランスが大変良いです。
まるで高級なチョコケーキを口に入れているかのよう。
ミルクスタウトというべきしっかりした甘味レベルは大手のビールと考えると好みが分かれるかもしれません。
【追記】
元々のアフターダークはもう少しドライだった記憶があるのですが、さすがに何年も前なので憶測は控え、別の商品と捉えることにします。
ミルクスタウトだと考えるとブラインドで出されたら有名なビールかと思ってしまうほど品が良く、それは下面発酵によるキレの良さに秘密があるのかもしれません。
少し温度を高めてワイングラスでゆっくり飲むとまた楽しめそうです。
冬季限定に留めるのはもったいないですね。
サッポロ
サッポロ ナナマル
色:やや濃いゴールド
泡立ち:良くない
度数:5%
【背景】
10/17に発売。現在最も良く店舗で見かけた商品ですので、裏返せば日本の健康意識とニーズの高さが透けて見えます。
ビール扱いですが糖質、プリン体70%オフの商品。開発秘話によれば開発に7年もかかったそうです。
意気込みの強さが伝わってきますが、やや質素なラベルは埋没してしまうデザインです。これには70の数字を自然に強調する狙いがあるのかもしれません。
【テイスティング】
発泡酒区分ではないためライトラガーと考えることとしました。
泡がすぐに消えますが、正直この手の健康志向スタイルとしては相場のスピードです。
肝心の味ですが、糖質とプリン体を引いたせいか旨みが減り味の伸びがありません。
焦げ集、メタリックさも表に出てきてしまっているため終始不快な臭みを伴うのが玉に瑕。
反面酸味と、流れ星のように舌の上から消えるフレーバーのスピード感は食事に合わせやすく、
宴会の二杯目以降などに適しています。
5%すら感じさせないライトさ、糖類の添加もありますが、非熱処理で仕上げられており、そこには技術の進歩を見て取ることが出来ます。
【追記】
タイミングで言えば、好調なキリンの「一番搾り糖質0」、サッポロの「パーフェクトサントリービール」、への後発商品となるため、他商品を意識してないことはないでしょう。
とはいえ味としては他社に軍配が上がり、節税型発泡酒を想起させる物足りなさですが、
糖質とプリン体両方を下げられた商品は日本初(※サッポロ社調べ)ですので、
今後の市場の伸びに注目しましょう。
サッポロ GRAND HOP
色:ゴールド
泡立ち:良くない
度数:6%
【背景】
ここから先、コンビニ限定品が続きます。
10/31にセブン&アイグループにて限定発売。夜明け前のようなパッケージが目を引きます。
「ダブル贅沢仕込製法」で従来比1.5倍の麦芽とホップを使用し、「長期熟成製法」でも1.5倍の熟成を行うこだわりよう。
大手の醸造量で1.5倍に増やすというのは単純に従来品の予定にも差し障ってくるはず。
また、中央に誂えた「国産ホップ100%」の文字が売りであることが伝わります。
【テイスティング】
金属臭が昇華して生焼けの秋刀魚のような香りがあります。
加えてベースはサッポロクラシックのようなテイストですが、国産ホップのキャラクターが淡すぎるために、最大の売りが拾いにくくなってしまっています。
総じて6%のまろやかなサッポロビールといったところ。
モルトの甘味は感じられますが、ホップを他にも複数採用しアロマの層構築をしたほうがテーマにも沿っていたと思います。
【追記】
下記の「コクの真髄」にもこだわりの製法が用いられているのですが、
「GRAND HOP」に関しては他の商品と比較するに「ホップに着目したプロダクト」としての役割を担って登場していると推察されます。
その割にホップの品種の明記がないのは残念です。
国産ホップの品種は多くはないのである程度は絞れますが…
日本の大手メーカー伝統的にレシピを公開しないコンサバティブな体制があった中、
近年のリリースでは品種名をむしろ押し出していく商品が増えてきているタイミングだったので、その点も含め非常にもったいない印象を持ちました。
こちらの商品はシリーズ名も冠しておりませんし、気付けなかっただけで何か意図があるのかもしれません。
サッポロ 冬物語
色:濃いゴールド
泡立ち:良くない
度数:5.5%
【背景】
最も知名度があるビールかもしれません。11/7に限定発売。
秋系と並び季節感をうまく使ったビールとしてははしりで、日本を代表する銘柄のひとつと言えるのではないでしょうか。
デザインチェンジは頻繁に起きていますが、なんと88年からほぼ毎年リリース。
これまでのデザインとそれぞれのキャッチコピー(なんとほぼ毎年変わっている!)をHPで見るだけでも楽しいです。
【テイスティング】
意外にも泡持ちはさほど良くなく、鼻を近づけただけでもわかる金属と硫黄、蔦のような香りがあります。
見た目に反して、炭酸は口に含むと大手各社のラガークラスのレベルは感じられるので爽快な印象で着地。
苦味酸味が強く無骨で男性的なイメージですね。
また、米、コーンスターチによる風味も見え隠れし、ミドルからライトなボディで、炭酸のアタックによる喉越しは気持ち良いです。
【追記】
「ビールは喉で飲む」を体現しているような、ある意味日本らしいビールの造りに思えました。
それはまるでサッポロでありながらレシピ変更前のスーパードライのようでもあります。
ロングランヒットの裏で、小麦を加え微妙にレシピを調整しているのも好感です。
小麦のタンパク質には泡を包み込む作用があり、泡の持続力が増すはずなので不思議ではあるのですが、
この商品に関しては、おいしいビールの何がおいしいかよりも「何が冬物語らしいのか」を追いかけているように自分には映りました。
サッポロ ビアサプライズ コクの真髄
色:赤みがかった銅
泡立ち:良好
度数:6%
【背景】
11/28にファミリーマートにて限定発売。ビアサプライズシリーズ13弾。
興味深いですが「GRAND HOP」とは対照的に競合コンビニ限定展開の、しかもシリーズ化している商品です。
これまでのシリーズの全てを自分も実飲できたわけではありませんが、13弾というのは人気も売り上げもあることは間違いありません。
常に「◯◯の◯◯」という名称で、テーマがひと目で分かるネーミングセンスと色合いのバリエーションが秀逸です。
ただ文字と柄両方を多く採用しているので見た目の情報が多く瞬間的なわかりやすさに欠けます。
「濃密ブレンド製法」により4種の麦芽を従来比1.5倍にし、「麦のふくよかなコクと旨みと、芳醇なホップの香りと上品な苦みを実現しました」とHPにありました。
【テイスティング】
アロマは弱く水あめ様。
メタリックと酸味があいまり鼻腔に生臭く感じる抜け方がありますが、やがて消えるホップニュアンスとモルトとのバランスを考えると、際立ってホップのキャラクターが弱いです。
しかしコクに重きを置いているのであればモルティな印象で正解なのでしょう。
長く続くほろ苦さは北海道かヨーロピアンホップのビタネスでしょうか、そこにはサッポロらしさが宿っています。
全体的にはあっさりで、トレンドテイストに向かっているわけでもなく、どちらにしても器用貧乏な印象を受けました。
【追記】
元々大手のビールはモルトへのこだわりをアピールするものが多かった時代から、クラフトビールのカルチャーの流れを汲み、近年はホップにも新品種を導入するなどの変化が起きています。
そのため、これまでのようにモルトだけではなくホップにも着目していくことはラベルからも暗に見て取れます。
トレンドの移り変わりが激しいホップとビール界に、サッポロなりに手を伸ばしているのかもしれません。
YEBISU CREATIVE BREW ヱビス ホップドリップ
色:濃い澄んだゴールド
泡立ち:普通
度数:5.5%
【背景】
12/19にセブン&アイグループにて限定発売。目下最も新しい商品です。
これまでホップに焦点を当てた大手のビールはいくつかありましたが、ヱビスでは珍しいですね。
大黒様は控えめに。緑のパッケージとシズル感のあるホップのイラストはモルトよりホップを意識しているので、クラフトファン層へもアピールできています。
【テイスティング】
月明かりのように輝く液色が美しい。
水あめのような糖化アロマ。
しっかりした苦味が支配的ですがその中にもホップな青々しさが顔を出すため、ホッピーなヱビスあるいはドイツビール「Jever」のようです。
苦いですが引きも早く味がクリアなのでクセになりますね。
アフターにタバコのようなロースト香とスパイシーさがあります。
【追記】
ヱビスの良いところが残しつつ、CREATIVE BREWを冠している点からも「新しいことしている」ブランディングをアピールしている商品ですね。
狙いはうまく噛み合っていますが、要であるホップの品種が「ドイツバイエルン産ホップ」としか記述がなく、何ホップかわからないのが非常にモヤモヤします。
マーケティング的に品種名で売り上げは左右されないと判断されたのでしょうか。
その代わり注目したいのは「発酵時にもホップを添加する“ドライホッピング製法”をヱビスで初めて採用。」というHPの文言です。
クラフトビールでは主流な手法であるドライホップを大手が行ったと明言しているのは、歴史が動いたと言っても過言ではありません。
品種名より新しい製法を取り入れていることをアピールしたいことがこれでわかります。
サントリー
ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム 深みの贅沢〜無濾過〜
色:少しくすんだ明るい銅
泡立ち:普通
度数:5%
【背景】
11/28にセブン&アイグループにて限定発売。前々から限定商品としてリリースしているマスターズドリームのシリーズ名を冠している商品となります。
プレミアムモルツの限定リリースは今年もいくつかありましたが、
こちらは「マスターズドリーム」とはっきり明言し棲み分けしているので、「無濾過」の文字とともに意図がしっかり伝わってきますね。
【テイスティング】
水あめや透過した麦の甘い匂いがメインです。
スモーキー、ロースティ、モルティさを、強すぎないがじわじわと余韻のある苦味が下支えしている構造になっています。
泡持ちは長い方ではありませんが、ほんのりした酸味が液のアクセントとなっており、スッキリしたフィニッシュからシトラシーにも感じさせてくれます。
苦いのに時間をかけて長く飲めるテイストに仕上がっていますね。
【追記】
普段よく飲まれている方ほど、無濾過のせいか液色の濁りによく気づかれるようです。
マスターズドリームらしい、穏やかで品があるテイストを守っています。
故に売りであるコク、味の奥行きに向き合うことができるようになってますね。
晩酌の時間を長くとる既存層をターゲットにした商品かもしれません。
その分、無濾過の液色をユーザーは見たくなったでしょうから、HPにグラスに注いだビールの写真を挿入していないのはもったいないと思いました。
総評
まず、個人的には本麒麟とアフターダークのインパクトが強かったのでキリンの製品の味の良さには非常に驚きました。
これが300円台で購入できるのは朗報です。
また、逆にアサヒの製品が1本しかなかったことにも驚きました。
ただ、オリオンビール名義であれば「オリオン・ザ・プレミアム」のリリースがありましたが、
それでも限定ではなく定番商品。
限定商品を造らずクリスタルドライへ一点集中しているわけです。
(※オリオン・ザ・プレミアムは沖縄自生のシロツメクサ酵母を使用した挑戦的な新商品。ECサイトと地域限定発売商品だったため今回は入手できませんでした。)
最後に、サッポロもサントリーも限定商品に力を入れていることがわかったのも興味深かったです。
特にハイボールで知られるサントリーは定番ビールを今年の3月に追加しつつ、
自分で割って濃さを楽しめる「ビアボール」のイベントを長期スケジュールで行っていた点も象徴的。
強みである開発力を活かし新たな提案を模索しているのは、ウィスキー商品のコスト高騰の影響を思い出さずにいられませんでした。
参考までに、各社の2023年の事業方針コピーです。
合わせて読むと各社の狙いが見えて晩酌のお供になりますよ。
アサヒ
ビールの魅力向上と新たな価値の創造で
”すべてのお客さまに、最高の明日を。”お届けする
キリン
ブランドと人財を磨きあげる
サッポロ
ビールの魅力化推進と新市場創造で「お酒」の新しい魅力を提案
サントリー
マーケティング投資を集中させビールカテゴリーの活動を強化
”新プレミアム創造”を目指し、「ザ・プレミアム・モルツ」ブランドを大幅にリニューアル
※他にも対象となる商品がありますが、全ての新商品を入手することが出来ませんでしたのでご了承ください。
【参考サイト】
12/23【訂正】
上記キリンビール社の「本麒麟 味わい濃厚 冬仕立て」において誤りご指摘がございました。
「300円台」と記載していましたが、正しくは「100円台」です。
訂正させて頂きます。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。