[コラム]2024.1.1

新年あけましておめでとうございます。
藤原ヒロユキが今想うこと2024

京都府与謝野町 冬(令和5年)

新年あけましておめでとうございます。

今年も、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会のメンバーをよろしくお願いいたします。

年末の繁華街・飲食店を見ていると、最も深刻だった時期に比べると賑わいも戻ってきたように感じます。インバウンドのお客さんも多くなってきましたし。
今年は、ビールシーンにも様々な動きがあるでしょう。

49歳〜20歳は【クラフトビールネイティブ】世代

日本にクラフトビール(当時は地ビールと呼ばれていた)が生まれたのは1995年。
29年前です。
クラフトビールが生まれた年に20歳だった人は今年49歳になるわけです。

生まれた時に、当たり前のようにインターネットやPCがある世代を「デジタルネイティブ」と呼ぶのですが、これをクラフトビールに置き換えると49歳〜20歳の人達が「クラフトビールネイティブ」層ということになります。

日本の人口は約1億2000万人。
20歳以上は約1億人。
49歳以下は約4200万人です。
つまり、お酒を飲める人口の42%がすでに「クラフトビールネイティブ」なのです。
お酒を飲める年齢になった時に、クラフトビールが当たり前のようにあった世代が飲酒人口の40%を超えているわけです。

日本のクラフトビールのシェア率は約1.2%?

日本のクラフトビールのシェア率は約1.2〜1.5%と言われています。

もちろん、この数字に「クラフトビールの線引きはどこか?」「海外からの輸入クラフトビールはカウントするべきかしないべきか?」という疑問を持つ方もいるに違いありません。
仰るとおりです。
これらを厳密に調べていくとその数字は1.2%を下回ることになるでしょう。
1.2%という数字はあくまでも、クラフトビール側としては身内贔屓な数字と言わざるを得ません。

クラフトビールネイティブ層が40%を超えたにも関わらず、日本のクラフトビールのシェア率は1%あたりをうろうろしています。

日本はクラフトビール後進国

ここで興味深いグラフを見ていただきましょう。

2023/4/22クラビ連記者会見配布報道資料より

各国のクラフトビールのシェアの推移です。
注目したいのは、クラフトビールの醸造が日本より遅れて始まった韓国、台湾、シンガポールにあっという間に抜かれている点です。

早めにスタートを切った日本は、クラフトビールの先進国だったのですが、今やまったくの後進国になってしまっています。

なぜ後進国になってしまったのか?

クラフトビールのシェアにおいて後進国になってしまった理由は何なのか?
様々なことが複合的に作用していると考えられます。

酒税の問題、玉石混合の品質、国産原料の使用率の低さ、業界内の連携と結束力の弱さなどがあげられますが、「小規模であること」にこだわることも手枷足枷になっているのではないでしょうか?

小規模の範囲とは?

クラフトビールの定義のひとつに「小規模であること」と銘打ったのはアメリカのブルワーズアソシエーションです。
しかし、彼らの言う「小規模」は私たち日本人の「小規模」とは桁が違います。
アメリカでは「年間​​の生産量が約600万バレル(約70万キロリットル)まで」が小規模です。

それに対して、日本では、「1回の仕込みが20キロリットル以下」の設備の醸造所を小規模としています。
20キロリットルの仕込みを1日に95回行って、やっと年間の生産量は約69万リットルです。アメリカでは小規模の範囲内なのです。
1日に20キロリットルの設備で95回の仕込みなど到底無理な話です。

アメリカの「小規模」が日本の100倍近い規模でないと計算が合わないことは誰にでもわかります。アメリカには、日本の大手ビールメーカーと変わらない規模の「小規模醸造所」も存在します。

注:この件に関しては、以下の​​JBJAサイトのアーカイブでも触れているのでご覧ください。
「クラフトビールの定義。クラフトビールとは?」
2012.10.16投稿記事
2015.9.25投稿記事

スモール イズ ビューティフルなのか?

はたして小規模とは何なのか? 小規模であることはクラフトビールにとってどのような意味があるのか? スモール イズ ビューティフルなのか?

この件は、2023年の元旦の記事にも書きましたので、ぜひご覧ください。

同じようなことを書いて『藤原も進歩しないなぁ』と思われるでしょう。
私のオピニオンが広がらないことは私の力不足に他ならないのですが、小規模問題は日本人の「クラフト」という言葉のイメージも絡み、なかなか伝わりません。もどかしいところです。

2021年にクラフトビールは前年比200%の成長?

すこし古い記事(2021年10月)ですが、朝日新聞デジタルによると【クラフトビールは前年比200%成長】とのことです。

200%!? シェアは相変わらず1%程度なのに……。

この記事によると「クラフトビール」とは

大手5社以外の国産ビールに加えて、大手5社でクラフトビールと訴求している国産ビールをクラフトビールとして商品選定を行っています。

とのことです。

読み進めると、【200%成長】のほとんどが、スプリングバレーブルワリーの売り上げによるものだということが伺えます。

大きいことは悪いことなのか?

この記事を読んで「大手ビールメーカーが造るビールはクラフトビールではない」という人がいることでしょう。
この記事の感想にとどまらず「大手ビールメーカーのビールはクラフトビールではない」とオートマティックに決めつけている人も多いようです。

なぜそう思うのでしょうか?

私は以前から「クラフトビールは1960年代半ばにアメリカ西海岸から始まった文化で、伝統と創造性を兼ね備えたビール造りのムーブメントである」と言い続けてきました。

このことを理解し、継承しているのであれば大手が造ってもクラフトビールですし、踏まえていないのであれば小規模醸造所が造ったとしてもクラフトビールではありません。

クラフトビールは、醸造所や醸造設備の規模ではないのです。
ムーブメントであり、文化なのです。
そこには、思想が伴い、情熱が必要です。

クラフトビール文化の思いが詰まった美味しいビールならば大きな規模でバンバン造ってバンバン売って欲しいものです。私はそれをガンガン飲んでいきたいです。

小規模であることを強いるのは、業界の伸びしろに手枷をはめているに過ぎないのではないでしょうか?大きくなって何が悪いというのでしょうか?

タップマルシェのメリットは?

大手のクラフトビール進出は、1995年から地道にファンやマーケットを広げてきたクラフトビール業界の関係者にとって、「培ってきた楽園を荒らされるような気持ち」になるのかもしれません。
しかし、大手ビールメーカーは私達の楽園を奪い取ろうとしているわけではありません。
共に楽園を広げようとしてくれているのです。

そのひとつの例が、キリンのタップマルシェです。
タップマルシェを否定するクラフトビールファンもいるようですが、現在、10社以上のクラフトビールメーカーがタップマルシェに参画しており、その全てが「クラフトビール業界を牽引してきた醸造所」である事実は揺るぎません。

そのうえ、日経ビジネスによると、タップマルシェに参画したクラフトビールメーカーの売り上げが毎年増加しているとのことです。
売り上げだけでなく、「知名度が上がった」「新たな地域への販売につながった」「ブルワリーへの来訪者が増えた」といったメリットももたらしているとのことです。

手を取り合うことが大切

タップマルシェだけでなく、キリンビールは日本産ホップの普及にも力を入れています。
クラフトビールの香味やオフフレーバーを分析し、フェードバックしてくれています。
高額な分析機が必要で、小規模醸造所には到底できないことです。

このような事例を取り上げると、「大手がクラフトビールのデータやノウハウを盗もうとしている」「大手が何か企んでいる」といったことを言う人がいます。
驚きを通り越して呆れるしかありません。

今さら、何を盗み、何を企もうというのでしょうか?
データだけが欲しいのであれば酒屋でクラフトビールを買って独自に分析すれば良いだけの話です。各社にフェードバックする必要はありません。

大手ビールメーカーは、長年の知識と経験、優れた人材と立派な設備を持っています。
クラフトビール業界が、大手から学ぶことは多々あると感じますし、クラフトビール側から大手に提言できる事も数多くあります。
クラフトビールと大手ビールメーカーは協調していく必要があると思っています。

2024年は2025年へ向けてホップステップ

正月早々に来年2025年の話をすることはあまりにも気が早いと思われるでしょうが、日本のクラフトビール生誕30周年にあたる2025年には、日本クラフトビール業界団体連絡協議会主催の「ビアEXPO2025」が企画されています。

30周年の節目に、シェアを伸ばし、先を越された諸外国に並ぶ機会にしたいと今年から土台を組んでいく必要があります。
今年2024年は2025年に大きくジャンプするためのホップステップの重要な1年にしなければなりません。

小規模か? 大手か? などにこだわらず、ビールはビールです。
消費者が笑顔になるビールを世に送り出すことこそ大切なことではないでしょうか?

小規模であれ、大手であれ、ビールを愛し、美味しいビールを造ろうとする仲間ではありませんか。
手を取り合い、みんなで日本のビールシーンを盛り上げていければ良いなぁ〜と思っています。

2024年1月1日 京都与謝野にて

(一社)日本ビアジャーナリスト協会
代表 藤原ヒロユキ

藤原ヒロユキからのお願い
現在、日本ではクラフトビールに関する統計情報が存在しておりません。そこで日本クラフトビール業界団体連絡協議会では市場調査を行っています。未回答のブルワリー様は、ぜひご回答いただき業界発展にご協力ください。
すでにご回答いただきました約300社のブルワリー様には感謝申し上げます。
ご回答フォームはこちら(3分程度で回答可能です)

 

クラフトビールとは藤原ヒロユキ

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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