【本気テイスティング】ドイツと日本のヴァイツェン比較
ビールの審査会JAPAN GREAT BEER AWARDSの審査員経験がある筆者が、
定期的にテイスティングと紹介をしていくシリーズです。
今回は「ヴァイツェン」の日独飲み比べをお届けします。
あるとき聞きました。「日本のヴァイツェンは甘い」と。
今となってはどこで誰が発した言葉なのか覚えてはいないのですが、
自分自身、単一商品でテイスティングすることはあっても国という括りで比べてみたことはなかったので、
その検証を実行に移しました。
※記事内の「スタイル」とは日本地ビール協会刊行の「ビアスタイルガイドライン2204」を参照にしています
目次
ヴァイツェンとは
ドイツの伝統スタイルで、小麦を使用したウィートビールまたはヴィットビールと呼称されるスタイルの一つです。
ドイツという国はビール造りに「水、ホップ、麦芽以外を用いてはならない」とする「ビール純粋令」という法律を敷いた、世界でも珍しい国(後に酵母も加えられますが、小麦は含まれていません)
ただ、ヴァイツェンはあまりのおいしさに貴族や一部の富裕層には製造が許可され、当時重用されていたという歴史背景を持ちます。
このスタイルのポイントは小麦の使用量で、小麦を使っていればウィートビールとされますが、
ヴァイツェンを名乗る場合必ず小麦を50%以上使用していることが条件とされています。
その結果、
- 小麦由来の白濁、まろやかさ、滑らかな口当たり、豊かな泡立ち
- バナナやクローブ(丁子)に例えられる「エステル」と呼ばれる風味化合物のアロマ
- リッチな飲みごたえをもたらし苦みが少ない
以上が大きな特徴としてビールの味や外観に反映されます。
日本でも人気となったスタイルの一つですが、派生系スタイルが多いことでも知られており、
- ヘーフェ(酵母)ヴァイツェン
- クリスタル(澄んだ)ヴァイツェン
- デュンケルヴァイツェン
- ヴァイツェンボック
などが存在しますが、一般的にはヴァイツェンといえばヘーフェヴァイツェンを指していると言ってよいでしょう。
日本とドイツの味の違いを実飲して比較、
並びに日本でヴァイツェンがどう受け入れられたのかを追っていきたいと思います。
ドイツ:Paulaner
Weissbier
色:明るい銅
泡立ち:大変良好
度数:5.5%
【背景】
パウラナーのヴァイスビアーは、本場ミュンヘンで行われるオクトーバーフェストに出店が許された6大ブルワリーのうちの一つ。
ドイツビールの基準とも言える世界規模のブルワリーです。
【テイスティング】
グラスの縁に長く残る泡。
気にならない程度のベジタル。エステルのアロマは弱く殆ど感じられず甘味のほうが先に来ました。
一口目の印象はまずハチミツ、モルティー、甘さが飲み込んだ後までずっと続く穏やかな味。
ドライですが少々ペーパーっぽさもあり。
苦味はありません。
しかし後半甘味が引いた後モルティさでボディをかなり重く感じました。
【追記】
実はこちらの商品、日本のボトルは常温にて流通しています。
そのせいか、ダンボールのようなペーパーっぽさと酸味が出てしまっております。
品質は最上とは言えませんが、常温流通にもメリットがありまして、
コストが抑えられる、冷蔵庫以外で展開できるため売りやすい…などなど。
ドイツのクラシックなビールは鮮度が高いものを日本国内で飲むのは困難ですが、より旅情をそそりますね。
ドイツ: Hofbräu
Hefe Weizen
色:白くくすんだイエロー
泡立ち:普通
度数:5.1%
【背景】
ホフブロイも本場ミュンヘンで行われるオクトーバーフェストに出店が許されたブルワリーのうちの一つです。
実は新宿や渋谷に店舗があり筆者もお伺いしたことがあったのですが、閉店が続いており寂しいですね。
こちらもボトルは日本では常温流通。
【テイスティング】
ドイツらしいと言いますか、ど真ん中のような王道定番の味!と唸ってしまいました。
エステル香はありますがハチミツのように感じる部分も。
りんごを想起させる酸味、ペーパー感、汗のような雰囲気もあり、常温による劣化が見受けられます。
しかし口に含むとムクムクと膨らむクリーミーさがとても元気で驚きました。
苦味はないわけではないですがエステルと甘味にマスクされ気にならず、飲みやすさに繋がっています。
【追記】
お酒におけるりんごのニュアンスはカプロン酸エチルという成分によるものです。
日本酒ではポピュラーなニュアンスなのですが、ビールではあまり好まれません。そのせいで酸味も表に出てきてしまっていると感じました。
しかし、欲しい甘味と堂々とした発泡、ボディ含め最もバランスが良いと感じたヴァイツェン。
ドイツビールの専門店であれば樽で飲むことはできるので、それが楽しみになりました。
ドイツ:Franziskaner
Weissbier
色:少しくすんだイエローゴールド
泡立ち:良好
度数:5%
【背景】
フランツィスカーナーは一般市民によって造られた初の醸造所としてミュンヘンでスタートします。
オクトーバーフェストの6大ブルワリーには含まれませんが今では大規模工場に成長し、
日本でも上記2銘柄のビールの次に見かける、常温流通で入手しやすいブランドです。
【テイスティング】
熟成したクローブのような香りは人によってバナナにも感じるかもしれませんが、
飲み込むと石鹸、醤油、金属感もかすかに感じるのが興味深いヴァイツェンです。
スタイルの相場としては飲み比べた中でも酸味が立っている方で、さっぱりあっさりした印象。
薄力粉のような粉っぽさが舌に残りますが、苦味はなく飲み比べた中で最も甘くジューシーでした。
【追記】
甘味の分、フィニッシュがドライであっさりしているので飲み進めやすく、
500mlの中瓶サイズでもリラックスして最後まで飲み切ることが出来ました。
上記2種よりは複雑な要素がありますが、そこも大手に対抗するテイストに仕上げるために組まれたレシピだったのかもしれません。
因みに日本ではインポーターが数社存在しているようですが、全てを確認することは困難でした。
今回購入できた分はアンハイザー・ブッシュ・インベブ社によるものでした。
同醸造所は現在アンハイザー・ブッシュ・インベブ社傘下に入っています。
日本:富士桜高原麦酒
ヴァイツェン
色:くすんだイエロー
泡立ち:大変良好
度数:5.5%
【背景】
富士桜高原麦酒は山梨からドイツスタイルを発信し続けているブルワリーです。
国内外の賞を総なめにした、自他ともに認めるヴァイツェンの絶対王者といっても過言ではない銘柄でしょう。
ここ数年は賞レースから遠ざかっていますが、ドイツ人からも「ドイツのヴァイツェンよりうまい」と言われたことがあるとか…
【テイスティング】
消えはしますが、縁に長く残る泡、少々のクローブ、ヴァイツェン酵母らしいアロマ。その向こうに生魚のような匂い。
また、ウィートのトーストらしさも感じます。
舌の上では炭酸がドライに弾けて、案外ベタつかない構成になっています。
まるでアメとムチのようなバランス感。
後半口がすぼまる感覚が来たので、アストリンジェントが感じられました。
国内銘柄は甘いと思っていたのですが、終始ドライな印象でしたのでリッチな上記のビールが恋しくなりました。
苦みはありません。
【追記】
日本のヴァイツェンと言えば、で自分の中で一番初めに思いつく商品です。
何度かこれまで飲んでいましたが、改めて比べると甘いというよりさっぱりしたバランスなのはかなり意外。
濃厚なドイツのヴァイツェンが存在する中、その分スイスイ飲めるように調整したのかもしれません。
以下、受賞歴をHPより抜粋 ※多岐にわたるため直近の金賞のみ掲載
- アジア・ビアカップ (2017)
- World Beer Awards (2015)
- World Beer Awards (2013)
- アジア・ビアカップ(ケグ) (2013)
- インターナショナル・ビアコンペティション(ボトル) (2012)
- インターナショナル・ビアコンペティション(ボトル) (2011)
- インターナショナル・ビアコンペティション(ボトル) (2010)
- World Beer Awards (2010)
日本:門司港ビール工房
ヴァイツェン
色:少しくすんだマホガニー
泡立ち:良くない
度数:5.5%
【背景】
門司港ビール工房は福岡のブルワリーで、ヨーロピアンスタイルを定番に構えるブルワリーです。
ヴァイツェンは同社の代表作、人気No.1を標榜するだけあり10年以上に亘り大小様々な賞を受賞していまして、
日本を代表するヴァイツェンとして申し分ないスペックの商品。
【テイスティング】
注ぎたては良かったですが、持続力がない泡です。ただ口中はクリーミー。
クローブアロマはきちんとあり、薬品のようにはなりすぎていません。
味は突出した要素がなく穏やかですが、リッチなコクの後わずかにドライなキレがあります。
それにより飽きが来にくく、トータルバランスに秀でています。
【追記】
創業時は瓶を採用していましたが、一時期から缶に切り替えました。
メタリックな外観は伝統スタイルの老舗の門司港ビール工房からするとモダンに映りますが、
缶詰システムはCowboy Craft供給によるアメリカのWild Goose社の設備を導入されました。
日本のサイズ感にあった設備と酸素の入り込む余地のない造りは多くのブルワリーが採用している設備で、品質も高いものを保証してくれます。
確かに劣化を感じることはありませんでした。
以下、受賞歴をHPより抜粋
- Beer-1グランプリ グランプリ受賞 (2021)
- 全国地ビール品質審査会 最優秀賞 (2021)
- 全国地ビール品質審査会 最優秀賞 (2019)
- ワールドビアアワー 日本ラウンド 金賞 (2018)
- ジャパン・アジアビアカップ ヴァイスビール部門 金賞 (2011)
日本:DHC BEER
ヴァイツェン
色:少しくすんだゴールド
泡立ち:普通
度数:5.5%
【背景】
DHC BEERは静岡のブルワリーですが、あの化粧品メーカーDHCのビール部門でもあります。
実は様々な商品で受賞歴を持ち、醸造委託も積極的に請け負っている日本では大きめのブルワリーの部類に入ります。
【テイスティング】
初めは多少泡立ちますが持続せず液面がすぐに見えるほど。
アロマはバナナというより赤りんご、吟醸香が優勢ですが口に含むとクローブの戻り香があります。
口中のクリーミーさがないので余韻が短く味が萎んでいくようです。
無濾過と明記がありますが、これでは物足りないですね。
甘味レベルは高めですが余韻が短いので酸味が舌先に残ってしまい気になります。
かすかな金属臭。
【追記】
缶のデザインもインパクトがあり価格も低く抑えられているので、
酒屋での流通が広く比較的よく見かけるヴァイツェンではないでしょうか。
無濾過はヘーフェヴァイツェンの特徴そのもののはずですが、前述の泡立ちや色の澄み具合からするとクリスタルヴァイツェンのスタイルに近いのは残念でした。
- JAPAN GREAT BEER AWARDS 2022 南ドイツスタイル・ヘーフェヴァイツェン部門 銀賞受賞
日本:常陸野ネストビール
ヴァイツェン
色:くすんだオレンジ
泡立ち:良くない
度数:5.5%
【背景】
常陸野ネストビールは、茨城のブルワリーですが、元々は日本酒を初め様々なお酒を展開する木内酒造によるビール部門です。
海外へ行かれた方なら恐らく海外で最もよく見かけた日本のクラフトブルワリーではないでしょうか。
歴史は1823年創業と古く、醸造の豊かなノウハウを活かし挑戦的なビール、ジンの製造も行っている老舗です。
常温流通可能商品でしたので、常温で入手しました。
【テイスティング】
泡立ちはヴァイツェンとしてはかなり悪く、炭酸が抜けてドライに感じる部分もありますが、甘味酸味のバランスが良いため長く楽しませてくれるビールです。
まったりというよりはオレンジテイストで、スッキリ味が抜けます。
最も白濁がある銘柄かもしれません。
酵母由来のホワイトペッパーのようなスパイシーなフィニッシュ。
ボディがライト寄りで苦味、喉への引っ掛かりはなく飲みやすいのでドリンカビリティ高めの構成にされたのだと思いました。
【追記】
日本のクラフトビール黎明期を支えたブルワリーですので、さすがお酒のノウハウを生かしたような技術力です。
常温で全国に販売し価格も抑え、なおかつ安定したバランスを保っていることを考えると、このこの小瓶に秘密が結集しているかのような錯覚を覚えます。
泡だけは残念ですが、特別甘味が強いとは感じませんでした。
同社はホワイトエールなど他にも小麦をメインにした商品を発売しているので、そちらを飲み比べるのも面白そうです。
日本:穂高ブルワリー
穂高ビール ヴァイツェン
色:白く濁ったイエロー
泡立ち:良好
度数:5%
【背景】
穂高ブルワリーは長野のブルワリーで、定番4銘柄が主力商品ですがアルトやケルシュなどドイツスタイルを作り続けているブルワリーですね。
他の銘柄では受賞歴もありますが、ヴァイツェンに関してはHPを見る限り受賞はないようです。
安曇野と南アルプスを想起させるラベルが印象的です。
【テイスティング】
フルーティな香りがありますがはっさくのような酸味があるため、
ヴァイツェンというよりはベルギーのベルジャンホワイトのようなファーストインプレッションです。
また臭みが抜けきっていない印象がありますが、酵母臭によるものかもしれません。
ボディも薄く軽快ですが硫黄やミネラルがある山の水のよう。
【追記】
滑らかさはないため日本人向けに慣らしたのでしょうか、ぐぐっと飲み干すには向いた仕上がりです。
飲み比べた中では最もはっきり苦みがあり、ここでも甘いという先入観は裏切られた形となりました。
伝統的なスタイルとは遠いことはすぐに感じられますが、ドイツのボディの重さを危惧した結果かもしれません。
終わりに
ヴァイツェンはスタイルの定義の上では、甘味について特別言及がありません。
しかし予想に反して、日本だから甘いということはなくむしろドイツの銘柄の方が甘いこともあるというのは大きな発見でした。
甘さや苦さよりも、小麦由来のリッチなボディのふくよかさに明確な差があり、
国内のヴァイツェンはさっぱりした傾向があることがわかりました。
余談ですが、
世界のビールのテイストの傾向は気候による影響も大きいのですが、
現在ビールシーンをリードするアメリカではヴァイツェンスタイルはそれほど作られません。
ドイツスタイルの需要や小麦を使ったビールがないわけではないのですが、
現在のトレンドからは外れています。
「アメリカンウィートビール」というスタイルが発達し、初夏などにライトなビールが出回ることのほうが多いようです。
開店時間での訪問は叶いませんでしたがアメリカにはパウラナーの公式店もあることを確認しています。
地域により本来のテイストがアレンジされるのは、日本と同じかもしれません。
日本人は味覚が優れている民族だと揶揄されることもありますが、
海外の方と比べるとアルコール耐性が低いことでも有名。
そういった背景から、日本ではよりライトに、
味わいにこだわったビールが受け入れやすかったのでは、という気づきを今回の検証では得ました。
また最後に、現在の日本ではドイツの伝統的な商品を入手することが難しかったのも、
寂しく残念に思いました。
日本の製品は日本の良さを、ドイツの製品はドイツの良さを、今後も楽しんでいきたいですね。
参照
【パウラナーインポーター アイコンユーロパブ】https://www.htg-iep.com/
【ホフブロイインポーター 日本ビール】https://www.nipponbeer.jp/
【フランツィスカーナーインポーター アンハイザー・ブッシュ・インベブ】https://ab-inbev-japan.com/
【富士桜高原】https://www.fujizakura-beer.jp/line-up/
【門司港ビール】https://mojibeer.ntf.ne.jp/
【DHC BEER】https://top.dhc.co.jp/shop/beer/
【常陸野ネストビール】https://hitachino.cc/
【穂高ブルワリー】https://www.eiwamm.co.jp/beer/
【カウボーイクラフト】https://cowboycraftjapan.com/
追記:12/31 ブルワリー名の誤りがあったため訂正いたしました
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。