[コラム,テイスティング,ビアバー,ブルワー]2024.1.21

メルボルン発:ファームハウスのスタイルにこだわるブルワリー LA SIRÈNE を訪れた

オーストラリア第2の都市メルボルンにとびっきり美味しいセゾンをつくるブルワリーがある。LA SIRÈNE(ラ・シレーヌ)だ。
筆者が初めてLA SIRÈNEのセゾンを味わったのが2018年のこと。その味わいと印象がいまだに忘れらず、今回は念願かなってLA SIRÈNEを訪れることができた。

La Sirene Brewingの外観

LA SIRÈNE Brewingの外観

LA SIRÈNEは、ワイン醸造家であったコスタ・ニキアス氏(以下、コスタ氏)によって2010年にメルボルンで設立された。コスタ氏は、ベルギー南部の伝統的なファームハウスで作られてきたセゾンスタイルにこだわったビール作りを行っている。フレンチオーク樽でのオープン・ファーメンテーション(樽の蓋を開けた状態での発酵)やボトルでの2次発酵等を行っており、ビールの原料となる穀物類は100%地元のビクトリア州産のものを使用している。IPAやXPAなどオーストラリアでも高まるクラフトビール消費のトレンドとは異なる領域でのビール作りはクラフトブルワリーが急増するメルボルンでも異彩を放っている。

Bar Area at La Sirene

醸造所併設のバーカウンター

メルボルンの中心から約10kmほど北に位置するレザボア(Reservoir)にLA SIRÈNEの醸造所がある。事前に代表のコスタ氏と会う約束をしていたので併設バーがオープンする前の16:00に訪れた。入口をから短い通路を進んで建物内に入ると左手にバーカウンター、右手には山積みになった樽が視界に入る。一瞬、ワイナリーに来たのかと錯覚するが、これら全てLA SIRÈNEで製造され熟成中のビールが入った樽なのである。山積みの樽の横にテーブルが設置されているので、ここを訪れた人々は樽の隣でビールが楽しめる。

ファームハウスのスタイルにこだわったビールづくり

熟成用オーク樽に囲まれたLa Sirene 醸造所の室内

熟成用オーク樽に囲まれたLa Sirene 醸造所の室内

出迎えてくれたコスタ氏に話を伺った。

コスタ氏:全てのLA SIRÈNEのビールはこの醸造所で作られています。バーと醸造所は同じ建物内に設置していて、訪れた人々がビールを熟成中の樽に囲まれながらビールを体験してほしいと思っています。樽はフレンチオークで平均して3年半程度、ビールを熟成をしています。

醸造設備の前に立つコスタ氏

醸造設備の前に立つコスタ氏

コスタ氏:LA SIRÈNEでのビール作りの特徴・試みを3つ紹介したいです。一つ目は、フレンチオーク樽を使ったオープンファーメンテーションで、この二つの樽を普段使っています。
※オープンファーメンテーションとは、蓋を開けた状態で発酵を行うこと。

オープンファーメンテーションに使われるフレンチオーク樽

オープンファーメンテーションに使われるフレンチオーク樽

ワイン醸造のブレンド技術「Soleraメソッド」をビールに応用

コスタ氏:二つ目が、最近取り組んでいる「Soleraメソッド」というシェリー酒を造る時に使われる伝統的なブレンド技術をLA SIRÈNEのビールにも応用しています。
※Soleraメソッドとは年式の異なるワインを段階的な継ぎ足しによってブレンドすることによって伝統的な味を守り、安定した品質のワインを提供する仕組みである。

Soleraメソッドで使われる設備

Soleraメソッドで使われる設備

南半球で初めてのクールシップに取り組む

コスタ氏:三つ目が、クールシップという方法です。バーカウンターの上に、シルバーの細長い容器が見えますか?一見、シンプルなトレイのように見えますが、自然冷却のために適切な設計がされています。かつて、数百年前にベルギーの農家で作られていたファームハウスエールは、この手法によって生まれました。しかし、現在では冷却技術の発達によってほとんどクールシップは使われていません。クールシップの使い方としては、夜に麦汁をこの容器に流すと翌朝には100度から20度まで自然に下がり、その後、樽に詰めます。クールシップの目的は、麦汁が冷却されるだけでなく、冷却の過程で天然酵母と発酵で活躍する微生物が確保されるところです。2015年にLA SIRÈNEでクールシップが導入した時は、南半球では初めての試みだったと思います。

バーの上に設置されたクールシップの容器

バーの上に設置されたクールシップの容器

強いビジョンとパッションを持って、セゾンにこだわることが私の「生き甲斐」

バー内でビール作りについて熱心に語ってくれるコスタ氏

バー内でビール作りについて熱心に語ってくれるコスタ氏

再びバーカウンターに戻りコスタ氏に話を伺った。

筆者:ブルワリーを始めたきっかけは?
コスタ氏:もともとワイン醸造をしていました。ワインもビールも好きで、ワインとビールの中間の少しグレーな領域で挑戦をしてみたいと思っていました。セゾンは、このグレーなエリアにガッチリとハマります。白ワインのようなクリスプと華やかな香り(フローラル)、そして適度な炭酸のキレ(カーボネーション)、酸味、また、フードとのペアリングにも適しています。LA SIRÈNEを設立した2010年当時は、オーストラリアだけでなく北米でもファームハウスのセゾンはほとんど見られなかったと思います。自分たちは、この時間をかけて作るセゾンが大好きで、これだけを作りたいと思ってブルワリーを始めました。

LA SIRÈNEのシグニチャーであるセゾン。瓶のラベルは人魚の絵柄(フランス語でLA SIRÈNE)

LA SIRÈNEのシグニチャーであるセゾン。瓶のラベルは人魚の絵柄(LA SIRÈNEはフランス語で人魚のこと)

筆者:セゾン以外のスタイルのビールを作ろうと思ったことはありますか?
コスタ氏:強いビジョンと、パッションを持って、セゾンにこだわって作っています。流行っているからといってIPAやXPAといった他のスタイルのクラフトビールを作るということは考えていません。このこだわりは全ての人々へのメッセージだと思っていて、本当にやりたいと思うことをやっていきたい。セゾンだけにこだわるということは、勇気も必要だけど、自分にとっては人生における目的、「生き甲斐」(コスタ氏は日本語で”Ikigai”と言ってました)だと考えています。

筆者:メルボルンで醸造することの利点はどんなところにありますか?
コスタ氏:メルボルンはビール醸造をする上で地理的に特別な街だと考えています。メルボルンの南には南極大陸しかなく、南からの海風によって運ばれてくる自然酵母やバクテリアは新鮮で良質です。また、メルボルンのころころ変わる天気や、オーストラリアの他の都市と比べて湿度が低いこともビール醸造にとって良い点だと思います。

テイスティングで頂いたGiner & Lime

テイスティングで頂いたGiner & Lime

プレートに3種のチーズ、2種類のハムなどてんこ盛りのファームハウスボード

プレートに3種のチーズ、2種類のハムなどてんこ盛りのファームハウスボード

醸造所入口付近には、持ち帰り用にボトルコーナー(缶も)があり、シグニチャーのセゾン、クールシップやSoleraで作ったビール、また、醸造年毎でも選べるようになっている。

ボトルショップのコーナー

持ち帰り用のボトルコーナー(缶もあり)

今回は、年末の多忙期に時間を割いてくれたコスタ氏に貴重な話を伺うことができ感謝したい。
コスタ氏の好きなことへの強い情熱とこだわる姿勢は、LA SIRÈNEで作られるビール自体に、飲み手に、そして関係する人たち皆に影響を与えていると思う。
次回、メルボルンを訪れる際は必ず立ち寄りたい。

日本国内でのLA SIRÈNE銘柄の入手方法についてコスタ氏に聞いたところ、東京・赤坂のバー Sansaや、ボトルショップの田中屋(東京・目白)で取り扱っているとのことだ。機会があれば是非、LA SIRÈNEの絶妙なセゾンを味わってほしい。

 


ブルワリー & 取扱店舗情報(日本国内)

■訪問したブルワリー
LA SIRÈNE BREWING
住所:277 Edwardes Street Reservoir Victoria 3073 Australia 🇦🇺
地図&行き方
電話:+61 (0) 452 339 210
公式ホームページ
※2023年12月末に訪問

■LA SIRÈNEの銘柄取扱店舗(日本国内)
SANSA(サンサ): こだわりのビールとワインを中心に食事を提供するバー
住所 :〒107-0052 東京都港区赤坂 2-20-19 赤坂菅井ビル1F
地図&行き方
電話:070 9191 9977
公式ホームページ

目白 田中屋: ウィスキーやビールを中心に屈指の品揃えの名酒屋
住所 :〒171-0031 東京都豊島区目白3丁目4−14 田中屋ビル 地下1階
地図&行き方
電話:03-3953-8888
取扱については状況によって変更される可能性があります。事前に店舗へのご確認をお勧めします

sansaオーストラリアオープンファーメンテーションクールシップセゾンファームハウスベルギービールメルボルンワイルドエール田中屋野生酵母

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

モリイクオ (ikuo mori)

ビアジャーナリスト / Beer journalist

大阪出身。東京在住。ビアジャーナリスト&ビアテイスター。
学生時代に滞在した北米やヨーロッパで初めてピルスナー以外のビールと出会う。まだ見ぬビールの世界があると思うとワクワクする。主に旅先で出会ったビール、ビールにまつわる話を紹介している。

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