金沢にある、創業から2年でWBC金賞を受賞したブルワリーを訪れる
アメリカで行われる「World Beer Cup」は、世界中の優れたビールが集まる、非常に大きな審査会だ。日本からも多くのビールが出品されるので、どのブルワリーが受賞するのか、開催の度に結果を見るのが楽しみである。
直近では昨年の5月に行われたが、結果発表の日にWebサイトをチェックしていて驚いたことがあった。日本の受賞ビールの中に、私の知らないブルワリーの名前が一つあった。しかも、金賞である。その名は「BREW CLASSIC」、受賞ビールは「ドリスノジャガーヲ」。アメリカン-ベルゴスタイル・エールとのことだ。
我が国のブルワリーの数は、ここ数年は増加の一途をたどり700を超えたとも言われている。その全てを把握しているわけではないが、話題になったブルワリーはチェックしてきたつもりである。ビアジャーナリストとして不覚を取った次第だが、気を取り直して、さっそくWebサイトを開いてみた。
受賞した「ドリスノジャガーヲ」は売り切れであったが、在庫のあったセッションIPAの「ブルクラセッション」を注文。飲んでみた第一印象は「クリア、シャープ、きれいなビール」。もちろんセッションIPAとしての、ホップの苦みやフルーティーなエステルがあった上でのことだ。実際に飲んでみて、このブルワリーがWBCで金賞を受賞したことが納得できた。そして、いつか訪問してみたいと考えていた。
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金沢市郊外、住宅街の中にある醸造所
2024年1月27日(土)の朝、東京から金沢までの新幹線は空席が多かった。元日の能登半島地震の影響で、観光客が少ないのだろうか。このタイミングで訪問を決めたのは、やはり地震の被害のことなども気になったからではある。
幸いにも金沢駅は観光客でそこそこ賑わっており、外国人の姿も多く見かけた。街の中心部や兼六園などの主要な観光地へは駅の東口からバスで向かうのだが、今回の目的地へは反対側の西口から出る、ごく普通の路線バスだ。地元の人々と共にバスに揺られること約20分、最寄りのバス停で降りて徒歩約5分。住宅街の中にある醸造所は、シンプルな看板だけが目印である。
醸造所のオープンまでと、ビール造りへのこだわり
オーナー兼ヘッドブルワーの酒尾タケノリさんは、金沢市出身。以前に東京や横浜でサラリーマンとして働いていた時にクラフトビールに魅了され、地元で起業したいという気持ちが芽生えたとのこと。静岡県のMt. Fuji Brewingで醸造修行を行い、クラウドファンディングも用いて2021年12月に醸造を開始。
醸造するビアスタイルは自身の好みから、ウエストコースト系のクリアなIPA、また、セゾンやベルジャン酵母を使用したものが多いとのこと。こだわりとしては、回収酵母は使用せずに、常に新鮮な液体酵母を使用している点。新しい酵母を最高のコンディションで健全に働かせることで、クリアでキレイなビールを目指しているとのことだった。
現在の仕込みの規模は1回あたり1000リットルで、月に3回程度。コールドサイドのタンク数は、発酵タンク2本と熟成タンク4本。今後は発酵タンクをあと数本増やしたいとのこと。工場内はスペースにゆとりがあり、作業しやすそうだ。狭い建物内で四苦八苦している東京の都心のブルワーがみたら、うらやましい環境だろう。
キャッチーなラベルは奥様のデザイン
ビールのクオリティーは審査会の結果でお墨付きだが、キャッチーなネーミングとラベルも非常に面白い。聞くと、酒尾さんが醸造から商品名のネーミングまで行い、ビアスタイルと商品名を元に奥様がラベルをデザインするそうだ。シルバーやブラックを基調に、有彩色の数を抑えた色使いでファンキーなデザインのラベルは、クリアなビールの味に不思議と調和している気がする。直売所内の壁には今までのリリースのラベルが張られていた。今後どれだけ増えてゆくか楽しみだ。
地震の時のこと、そして被害状況
今年の元日の夕方に起きた能登半島地震。その日、酒尾さんは仕込みを行っており、地震の起こった午後4時10分は清掃を終えた頃だったそうだ。金沢市は震度5強を観測、工場内にいた酒尾さんは、大きく揺れるタンクを見ていることしかできなかったとのこと。幸いにも大きな被害は無く、発酵タンクに繋がる冷媒の配管が1本破断した程度で済んだそうだ。そのタンクの中には発酵中のビールがあったが、冷媒管はもう一つの系統が無事だったので、大事には至らなかったとのこと。破断箇所の修理と今後へ向けての耐震工事を行う予定だが、工事の業者さんが忙しく、ようやく近々作業が行われる目途がついたそうだ。
最新のリリースをテイスティング
取材の最後に、直売所でビールを買って帰ろうとした時、勧められたのがこちらの「レッツ・ラ パーリー」である。ウエストコーストスタイルのアメリカンIPAだ。自宅へ持ち帰って冷蔵庫でコンディションを整え、翌日に飲んでみた。アルコール度6.4%とのことだが、ボディ感が軽めで、とてもドリンカブルである。まさにこのスタイルの王道を行く感じだが、そこにブルークラシックらしさであるクリアでスッキリとした飲み口と喉越しで、いくらでも飲めそうだ。最大の誉め言葉として「ヤバい」ビールである。
今後の構想など
今後に向けては、金沢の中心部にタップルームを開きたいとのこと。観光都市でもある金沢には複数のブルワリーがあるが、街の規模に比してまだまだ盛り上がりに欠ける印象は否めない。取材中にも直売所にはお客さんがちらほら訪れてはいたが、車でビールを買い求めに来た地元の人たちのようだった。観光客も訪れやすい金沢の街中に店舗があれば、訴求効果は一層高まるだろう。
くしくも金沢は、昨年の秋に、我が国における大きな国際審査会である「International Beer Cup 2023」が行われた都市である。そこでもBREW CLASSICは、金賞を含む複数の賞を獲得した。BREW CLASSICが、今後の金沢のビールシーンを盛り上げてくれるのは間違いなさそうだ。
BREW CLASSIC(ブルークラシック)
所在地:石川県金沢市無量寺2-80
直売所の営業日については、公式SNSにて最新の営業カレンダーをご確認ください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。