[コラム]2024.2.16

Beer&Life Style Fashion編
第14回【ビールとブーツのペアリング】<後編>

ビールのペアリングはフードだけではない。

どんな装い=ファッションで、どんなビールを飲むか……。
それが「ビールとファッションのペアリング」だ。

第14回目(特別編Vol.2)は【ビールとブーツ】のペアリングをお楽しみいただきたい。
特別編Vol.2:ブーツには冷やし過ぎずに飲むビール

Beer&Life Style Fashion編
第14回 【ビールとブーツのペアリング】<前編>からの続き。

存在感バッチリのカウボーイブーツ

牧童のブーツが乗馬用に特化していったのがカウボーイブーツだ。ウエスタンブーツとも呼ばれている。

鐙に足が素早く入るように、つま先は細身で尖っている。
ヒールがあるのは、鐙から足が前に抜けないようにするためだ。

シャフト(胴)が長いのはふくらはぎを守るためである。
カウボーイの重要な仕事のひとつにキャトル・ドライブと呼ばれる「牛の群れを移動させる旅」がある。
この間、野宿が続き、大地に横たわる。

粗い土や尖った石、トゲのある植物やガラガラ蛇など足元には危険なものがいっぱいだ。
タフな旅路に短靴は心もとない。

このように、ワークブーツのひとつとして生まれたカウボーイブーツだが、現在はドレスブーツとして履かれることのほうが多くなってきている。

派手な刺繍が施されたもの、爬虫類やオーストリッチなど高価な革を使ったものなどはインパクトが強く、履いているだけで目立つアイテムだ。

コーディネートはカウボーイハット、ヨークの入ったウエスタンシャツ、バックルが大きいベルト、ジーンズと合わせるのが基本だが、ガチガチのウエスタン・ファッションにしたくない人は”ウエスタンの雰囲気をちりばめつつのワイルド系”を狙いたい。

スーツに合わせるのならベックマンブーツ

ブーツはカジュアル。スーツには合わせられない。
と考えている人は、ベックマンブーツを履いてみてほしい。

ベックマンブーツは、1905年にレッドウイング社を創業したチャールズ・ベックマン氏の名にちなんだブーツである。

1900年代初頭は、舗装路が少なかったためぬかるんだ道も多く、労働者だけでなくビジネスマンも6インチ丈のミドルブーツを履く人が多かった。
ベックマンブーツはそんな時代の雰囲気を醸し出すブーツである。

ベックマンブーツには、先芯(つま先を守るため、靴の内側につけられた革)の有るものと無いものがある。
無いものをフラットボックスと呼び、今のベックマンブーツはフラットボックスが主流である。
フラットボックスは先芯が無いので、つま先がスマートでスーツにも合わせやすい。

オーソドックスな雰囲気を出したいのであればジャケットは3つボタンで上の2つを留めるデザインを選びたい。茶色の革に黒い塗膜をのせたブラッククロンダイクレザーならば、履き込んでいくうちに茶芯が現れて味が出る。

雨の日も晴れ晴れとハンティングブーツ

雨の日、頭を悩ませるのが靴選びだ。
スニーカーだと靴下まで濡れてしまうことがあるし、革靴だと滑る心配がある。

そんな時に活躍するのがレインブーツなのだが、なかなか洒落たものが見当たらないと悩んでいる人にはハンティングブーツを勧めたい。

ハンティングの際、湿地なども歩くのでソールと甲の部分がゴムで出来ていて、防水は完璧である。
ソールがチェーンパターンで滑りにくいのもありがたい。

シャフトが12インチや10インチといった長いものもあるが、日常使いには6インチのものが便利である。
足元がビショビショになる心配がなければ、雨の日も晴れやかな気分で出かけられる。

1912年、レオン・レオンウッド・ビーン氏によって開発されたハンティングブーツはL.L.Beanの原点と言える逸品だ。タウンユースにはモカシンタイプやサイドゴアタイプもあるが、6インチがデザイン的にも実用的にもベストだ。

雪の日はスノーブーツが大活躍

レインブーツのソールをさらに滑りにくくし、防寒機能を加えるとスノーブーツになる。
スノーブーツにも、お手軽なタウンユースのものから本格的なアウトドアものまで様々あるが、個人的にはソレルのカリブーがベストだと信じている。

ハンティングブーツと同じように、ソールと甲がゴムでシャフトが革という組み合わせで、インナーが分厚い。
足を入れるトップエンドにモコモコのボアが付いているのも可愛い。

パンツの裾を押し込んで、靴紐をきっちりと結んでおけば新雪につぼ足で踏み込んで行ってもへっちゃらだ。

革の手入れを怠らなければ20〜30年は履くことができる。
ちなみに、私は20代に購入し、40年近く履き(インナーは一度交換したが)、60歳を過ぎた頃に靴紐を通すDリングを支える革が切れたので2足目を買った。おそらく、3足目を買うことはないだろう。

雪国で暮らす人にとって雪かきは必要不可欠の仕事である。その際に重要なのは足元をしっかりして臨むことだ。滑る靴や雪が入ってくるようなブーツでは仕事にならない。屋根からの落雪も危険なので硬めの帽子を被っておきたい。日焼け止めや雪目防止のサングラスも忘れずに。

ブーツには冷やし過ぎずに飲むビール

体が冷えることはなにかとよろしくない。
免疫力の低下、風邪をひく、凍傷、低体温症、最終的には凍死に至ることもある。

昔から「頭寒足熱」という言葉があるように、足元は特に冷やしたくない。
足元を冷やさないブーツは、晩秋から冬、さらには春先まで重宝するアイテムである。

足元が温まったからといって安心してはいけない。
体そのものを冷やさない必要がある。

ガンガンに暖房を効かせた部屋でキンキンに冷えたビールを飲むのが至福の時。なんて言っていては「時代遅れ!」と叩かれてもしょうがない。
地球温暖化、環境問題、Co2排出量削減、SDGsといった観点からも、もってのほかの発言である。

だから、ビールも冷やし過ぎずに楽しめるものをペアリングしたい。
せっかくブーツで足元を温めても、ビールで体全体を冷やしてしまってはもともこもないのである。

リアルエールは冷やし過ぎない

冷やし過ぎずに飲むビールといえば、まず思い浮かぶのがカスクコンディション・エールだ。
醸造所から出荷された樽(カスク)をパブ内のセラーでコンディショニング(二次発酵や清澄など)してからサービングするビールである。
リアルエールとも呼ばれる。

パブの地下にセラーがあることが当たり前のイギリスではポピュラーなビールだが、残念ながら日本ではほとんど見かけることがない。

カスクが寝かされるセラーの温度は11〜13℃といったところなので、提供される温度も11〜13℃。
二次発酵で生み出される自然な炭酸ガスが溶け込み、まろやかで優しい口当たりと喉通りになる。

CO2で加圧して押し出すキンキンに冷えた生ビールに慣れている日本人には「なまぬるく気が抜けたようなビール」と言われてしまうのが悲しいところだ。

両国ポパイで行われたカスクコンディションフェスティバル2024の様子(2024.02.11)

ベルジャンスタイル・ストロングダークエールは冷やすともったいない

カスクコンディションエールの他に「冷やし過ぎずに飲むビール」といえばベルジャン系のストロングダークエールが思い浮かぶ。
アルコール度数が7%を超える濃色ビールである。

ローストモルトの香ばしい香りとダークキャンディーシュガーの甘味は、低温になると感じづらくなるので、冷やしすぎるともったいないビールだ。

ベルギーに似合う靴はブーツである

ベルギーの首都ブリュッセルの名は「湿地帯の砦」を意味する。
また、ブリュッセルから20kmほどの距離にあるワーテルロー古戦場(ワーテルローの戦いで有名な地)は「湿った低い草原」が語源と言われている。
このように湿地帯の多い場所には短靴ではなくブーツが必要だ。

また、ベルギーはかつて石炭の一大産地であり、坑夫達はアイアンレンジャーブーツのような丈夫なブーツが手放せなかった(足放せなかった?)はずだ。

ベルギーの農業の中心は牧畜で、乳製品と肉製品が全農産品の3分の2以上を占めている。牧童達は、ペコスブーツを履いているに違いない。(と思い込むのはやや強引か? 笑)
というわけで、ベルギーに似合う靴はブーツである。と(独断で)決めつけてしまいたい。

つまり!
ブーツには、【ベルギーの、冷やし過ぎずに飲むと香りや味わいが花ひらく、アルコール高めのストロングダークエール】がぴったりなのである。
ペアリングすれば、足元も体もポカポカだ。

ベルジャンスタイル・ストロングダークエールの特徴は?

アメリカのブルワーズアソシエイションのビアスタイルガイドラインによると、ベルジャンスタイル・ストロングダークエールの特徴は、以下の通りである。

色が濃く、クリーミーで甘いローストモルトとフルーティーな香りと味わいが混在している。
​​ホップの香りと苦味は低〜中程度で、ボディはミディアム〜フルの範囲。
発酵の過程でダークシュガーを加えるものも多く、また、ハーブやスパイスを使うものもある。
アルコール度数は7.1〜11.2%。

とはいえ、細かいディティールにとらわれすぎず「ベルギーの濃い色のハイアルコールビールで、モルトの香りと甘味にフルーティーな魅力が加わった、リッチなビール」ぐらいに思っておけば良いだろう。
ベルギービールは特に、スタイルガイドラインにとらわれて判断すると本来の魅力を見失いかねないので。

マルール 12

マルール醸造所はベルギーの首都ブリュッセルと人口が一番多い都市アントワープのちょうど中間あたりに位置するブヘンハウトにある。

祖父の代で閉鎖してしまった醸造所を、現在のオーナーであるエマニエル・ド・ランツヘール氏が1997年に再建した。
マルールという言葉は「災難、不幸なタイミング」という意味で、ベルギーの自虐的なネーミングのひとつである。

アルコール度数12%のマルール12、10%のマルール10、11%のマルール・ビエール・ブリュットとハイアルコール系のビールを得意としている。

銘柄:マルール 12
ビアスタイル:ベルジャンスタイル・ストロングダークエール*
醸造所:マルール醸造所
アルコール度数:12%
*ビアスタイルをスペシャルビールとしているケースもある。

藤原ヒロユキ テイスティングレポート

赤い色調のあるダークなブラウン。
ローストモルトの香ばしさとダークシュガーの甘い香りが漂う。
ダークチョコレート、黒糖、プラム、レーズン、巨峰、イチジクといったフルーツ、スミレのような花のようなアロマとフレーバーに加えアルコールの温かみを感じる。
後口にはしっかりと苦味を感じ、ビールらしさを主張している。

煮込み料理、豚汁、鹿肉のロースト、酢豚、ミートボール、ドライフルーツ、チョコレート、ブルーチーズ、はちみつなどと合わせると良い。

それでは、Cheers!

Beer&LifeStyleファッションペアリング藤原ヒロユキ

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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