ORYZAE BRWING木下伸之さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは?日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.20
ゲストを招いて日本オリジナルのビアスタイルの可能性を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。2024年2月は、Vol.19の延長戦として「麹ビール」に引き続き焦点を当てた。ゲストは麦芽を使用せず麹で醸すビールづくりをしているORYZAE BRWING木下伸之さん。
今回は技術的な話に発展すると思いきやCRAFT BEER BASEの谷さんと「麹ビール」への思いを交え合う展開となった。
濾過したもろみのおいしさから麹ビールの発想は生まれた
醤油や日本酒など様々な日本の発酵食品に携わってきた経歴をもつ木下さん。麹ビールを造ろうと思ったきっかけの1つに濾過したもろみがあったと言う。
「ある時、アルコール度数が5%のもろみを濾過して飲んだところおいしかった。アルコール度数を抑えた日本酒があると良いと思っていたこともあり、ビールの醸造方法で試してみようと思ったことがクラフトビール業界に参入したきっかけです」
そこから生まれたのが「ORYZAE PALE ALE」。しかし、甘酒を濾過した液体だと木下さんが理想とするコーヒーやイングリッシュビターをイメージさせる香りを出すことが難しかった。その後、麦茶やロースト麦芽を仕込み前日に水出しをして使用することで再現度は高くなっていく。
「ただ、それでも理想よりも香りは弱かったですね。ローストやホップのキャラクターが強い商品に弱い。それがORYZAE BRWINGの商品の特徴になっていました」と木下さん。そこから試行錯誤を重ねてたどりついたのが完成間近の種籾を発芽させた「米モルト(通称オリゼーモルト)」だ。発芽させた種籾を麹化、焙燥・焙煎して使用することでローストの香りが再現できるようになったと話す。
モルトやホップの個性を立たせるよりも麹を生かすことに特化させればいい
「米モルト」の完成により麦芽のローストフレーバーに近づけることができたORYZAE BREWINGのビール。しかし、谷さんは「モルトやホップの個性を立たせるよりも麹を生かしたビールに特化させる方が良い」という考えを示した。
「日本らしさを追求するなら、古来からある発酵文化を大事にして『米モルト』の個性を生かせるビールを造り続ける方が麹ビールの発展が早くなると思います」
IPAなどホップが効いたビールは、個性が強く麹の特徴が消されてしまうと谷さん。加えて、「IPAは繊細な和食に合わせるのが難しい」と感じていると話し、「流行りに乗せていくのではなく、麹の良さを生かすことに専念し、突き詰める方が文化としても発展するのではないでしょうか」と麹ビールを牽引する木下さんに期待をかけていた。
IPAが好きな人にも麹ビールを通じて会話がしたい
谷さんの話を受けて木下さんからモルトやホップの個性がある作品に挑戦している理由が語られた。
「私の理想は、日本酒の生酛の要素を取り入れたジャパニーズランビックみたいな麹ビールを造ることです。ただ、そこに辿り着くまでには世界の色んなビアスタイルを理解していかないといけないと考えています。その一環として様々なビアスタイルを参考にした麹ビールを造っています」
そしてもう1つ理由があると言う。
「ビールはコミュニケーションツールの1つだと考えています。今のORYZAE BREWINGのビールではIPAを好むビールファンを満足させられていません。IPA好きの人たちにも満足してもらえるビールを造り、交流を深めたい気持ちからホップの個性を生かした麹ビールに挑戦しています」
麹ビールの間口を広げるため、今は様々なビアスタイルをモデルにした品質の良い麹ビールを増やしていくことが役割だと木下さん。麹ビールに関心を示してもらうことで、多くのブルワーに造ってもらい、発展させる下地を築いていきたいと言う。
そして、その先には酒業界全体を考えた構想がある。
「『米モルト』を使ったビールを通じて、他のお酒にも影響を与えたいと思っています」と異なるアルコール飲料とクロスオーバーをさせることで、互いの世界を発展させていきたい野望があると言う。
「自分が考えていることは、現役中に実現することは難しいと思っています。実現するためには、次世代につないでいかないといけません。『特許は取らないのか?』と質問を受ける機会も多くあります。しかし、それでは早く広まりません。情報を公開して共有していくことで色々な人を巻き込んでいきたいですね」
1人でできることは限りがある。多くの人に麹ビールへの関心をもってもらい取り組んでもらうことで、様々なことに波及して大きな効果を生む可能性がある。
「早くやらないと、アメリカをはじめ海外の人たちに先を越されてしまいます。海外の人が挑戦するスピードは信じられないくらい早いです。先を越させてしまうと『日本オリジナル』をアピールすることはできません」と木下さん。
これについて谷さんも「海外を意識して見ていかないといけない」と同調したところで時間がきてしまった。
ビール醸造から日本の伝統的な発酵物に関心をもった谷さんと、日本の伝統的な発酵物からビール醸造に携わるようになった木下さん。麹ビールという独自の世界をみせている木下さんにだからこそ、谷さんは大きな期待を寄せるのだろう。だから技術の話ではなく、麹ビールへのこだわりに話が展開していったのだと思う。それでも2人の話からは、麹を通じて「日本らしさ」をどのように伝えていくのかを感じた。どのように伝えると発展していくのか。正解は未来にならないと分からない。谷さんと木下さんがみせてくれる麹ビールの世界を見守っていきたいと思う。
イベントの様子は、Podcastでも配信していて、過去の様子も公開している。誰がどんな考えを話しているのか通勤時間や作業中に聞いてみてほしい。また、今夏にリアルイベントを計画している。興味のある方は「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」のFacebookページをチェックしておいてほしい。
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