日本の名随筆「肴」を読んで思ったこと。
日本の名随筆(作品社)の26巻に「肴」という一冊がある。
選者は池波正太郎氏で30人余りの作家による随筆が収められている。
この中からビールにまつわるものを探してみたが、残念ながら『ビールって、その程度にしか思われていないのね…』といった内容だった。
たとえばある作家は
「急いで外で食事をしている時に何かこってりしたシチュウというようなものを飲み下すのにビールは合っている」
と書いている。
さらに日本酒に関する話の中で
「おそらく、(日本酒が)合はないのはカレーライスという風な辛い食べ物だけで、こういう食べ物で飲めるのはビール位のものだから、日本酒のせいではない」
とも述べている。さらに
「ドイツのミュンヘンの国立ビヤホウルでは大根を切ったのに塩しか出さないそうである」とまで仰っている。
オピニオンに「~だそうである、~らしい」といった裏取りのない聞き書きは禁じ手だと思いつつ「講釈師 見てきたような ウソを言い」なんて川柳を思い出す。
また、他の作品では、ある高級ふぐ料理店で
「まずビールを頼んだら『ビールを召し上がりますと、ふぐ本来のお味を味わっていただけませんのでお出ししておりません。日本酒でお願いします』と、丁寧な言葉づかいで言った。私は呆れ、いやな気分になったが招待されている身であり、ビールを省略してもたいした支障もないので日本酒からはじめた。」
といった話があった。
どの作品も書かれた時代が古いということもあるのだろうが、この嘆かわしい情況は現在もさほど変わっていない。
「ビールと料理の関係」に対する認識は、非常に低いうえワンパターンだ。雑誌やテレビ番組の「ビールに合うおつまみ特集」は塩からい、ピリからい、脂っこいのオンパレードである。
これは、日本では『ビールの多彩さ』がまだ広まっていないことに一因があると考えられる。
本来、ビールこそ『どのような肴にも合う万能酒』であるのに…。
ビールは、麦芽を乾燥させる加減やその配合、ホップの品種や煮沸時に投入するタイミング、上面と下面の酵母の違いなどにより、色や香りや味わい、アルコール度数、カーボネーション、ボディが変わってくる。
その組み合わせは無限であり、料理とのペアリングは累乗である。
シチュウを肴にゆっくりとスタウトを飲んだり、ミュンヘンのヴァイツェンに白ソーセージを合わせるといった幸せな体験をしていないのは、実に可愛そうなことだ。
ふぐの薄造りをつまみながらホップの効いたペールエールのグラスを傾け、ふぐ鍋を肴にスコティッシュエールをチビチビやるなんてのもオツである。
今後、ビール・ファンの多くの方々には「ビールと料理の関係」を意識し、そのかけ算を楽しんでいただきたいと感じている。
そして、ビアジャーナリストはその楽しさを多くの方々に伝えていくべきだと考えている。
1/20にシャンドソレイユで行われた「ベルギービールの夕べ」や去年12/12にエキュレで行われた「ワインとビールの宴」は非常に興味深いイベントだった。
また、本日(1/31)7時から放送されるユーストリーム「キッチンライフTV」では2人の料理研究家が作る料理に、私藤原がビールを合わせ、紹介する。
今後、このようなコラボが増えるよう努力していきたい。
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