夢を追い続け、世界初の技術を発見!籾×麹で生み出すOryzae Malt Pale Ale
自分が思い描いた夢に向かって、ひたすらに挑戦し続ける。
それはとても精神力のいること。特に「そんなことは無理だ」「できっこない」という声があるものに真正面から対峙するのは、相当な想いや覚悟が必要になります。
2024年3月。創業当初からの夢を追い続けた結果、日本の、そして世界の醸造史に新たな1行を刻むであろうビールが誕生しました。
「Oryzae Malt Pale Ale」
「米をモルトにして、ビールを造りたい」という想いで研究を重ねてきたオリゼーブルーイングの木下伸之さん(以下、木下さん)による、新たな技術を用いたペールエールです。
目次
世界初の技術を用いたペールエール Oryzae Malt Pale Ale
オリゼーブルーイングは、麦芽を一切使用せずに麹を使ってビールを醸すブルワリー。麦麹や米麹を使用し、様々な味わいのビールを生み出してきました。
代表的な銘柄は、麦麹を使用したフルーティな味わいとコク感じる「ORYZAE PALE ALE」と、米麹と米を使用した日本酒や白ワインを思わせる「JAPANESE WHITE No.9」。
どちらも高い評価を得ている銘柄ですが、安定したクオリティを提供し続けられる「JAPANESE WHITE No.9」に対し、「ORYZAE PALE ALE」は失敗しやすく、なかなか理想とする味わいに近づけることが難しい銘柄でした。
その理由は、ペールエールの特徴である「麦芽由来の香ばしさ」が、麦芽を使用しない麹ビールでは出ないから。
オリゼーブルーイングのビールは麦芽を使用しない代わりに、米や麦を麹にし、糖化のための酵素を生み出します。麹は生き物であるために、麦芽のように焙煎や焙乾という火入れの工程がなく、そのためどうしても端麗な味わいになるのです。
木下さんは「ORYZAE PALE ALE」に香ばしさを足すべく、麦茶を加えたり、ローストバーレイを追加したりするなど様々な方法に挑戦してきましたが、なかなか理想とする味わいに近づけることはできず。生麹で仕込むビールの限界を感じ始めていました。
しかしどんな困難な状況にあっても木下さんの胸の中にあったのは、「麹を使ったビールで、ビール好きの人とコミュニケーションをとりたい、満足をしてもらいたい」という強い想いでした。
そこで木下さんは誰も知らない醸造方法を見つけ出すため、一人麹×ビールの世界へと潜ることを決意したのです。
そして構想5年、研究2年。長い時を経て、ついに木下さんは麹の技術を用いた米をモルトにする新たな技術を発見。「香ばしさ」を味方につけた麹のビール「Oryzae Malt Pale Ale」の醸造に成功したのです。
籾を麹に、籾麹をビールに。「誰もやらなかった」ことで新たな世界を開く!
では世界初の技術を用いたとは「Oryzae Malt Pale Ale」は一体どのようなビールなのか、ブルワーの木下さんにお話をお伺いしました。
――まずは「Oryzae Malt Pale Ale」の完成おめでとうございます!麹の香りがふわりと広がり、香ばしさもあってとってもおいしかったです。
木下さん:ありがとうございます!
――今回のビールは米を新たな技術でモルトにして醸造しているとのことなのですが、そもそも米をモルトにすることは難しいのでしょうか?
木下さん:難しいですね。麦と米では、でんぷんを糖に変える酵素ができるタイミングが全く違うんです。麦は発芽するとすぐに酵素が活性化しますが、米は発芽し、かなり経たないと酵素ができません。しかもその酵素量は麦に対して非常に少ないのです。
日本では米をモルトにすることに関しては戦前から研究されていましたが、「難しい」という結果が出ており、この数十年は研究すらされていませんでした。
――そんな状況から研究をスタートしたのですね……
木下さん:はい、そもそも日本の米の消費量を増やすために米麹を使ったビールを造りたい」という想いでスタートしているブルワリーなので、どうにかして米で納得いくビールが造りたく、試行錯誤しました。
しかし2年近く研究しても、なかなかうまくいかずで……そんな時、「もういいや麹にしてしまえ!でも籾(もみ)で麹は前例がないしな……」と半ば諦めで籾付きの米を麹にしてみたところ、出来上がったのが籾麹でした。
籾麹を確認してみると、籾の中の澱粉がほどけているような状態で、麦芽作りの工程でいう「溶け(modification)」の状態に似ていて。だったらこれを、キルン(焙煎・焙乾)すればモルトになるのでは?!と光が見えたんです。
――籾麹!はじめて聞きました。
木下さん:そうですよね。籾がついたまま麹にしても日本酒造りや味噌づくりなどにおいて特にメリットはないので、恐らく誰もやってはいないと思います。
――つまり木下さんが籾麹の第一人者かもしれない、ということなのですね! 籾麹はどのようにして作るのでしょうか?
木下さん:籾を発芽させ、蒸します。そうするとぱかっとハマグリのように割れるので、それに種麹をまぶし、数日間かけて籾麹にしていきます。
これ、おもしろいことに発芽の具合で籾の開き方が全然変わってくるんですよ。ぷくっと芽が膨らんだくらいでは、きれいに割れないんです。
ある程度発芽すると蒸したときに割れやすくなり、でんぷんの分子が小さくなるため麹もはぜやすくなります。
――できた籾麹はどのようにしてビールにするのでしょうか?
木下さん:籾麹にした後は、通常の麦芽を作るのと同じ手法でモルトにしていきます。熱風を送り込み、キルン(焙煎、焙燥)して完成。こうして出来上がったものは、通常のモルトと区別するために「オリゼーモルト」と呼んでいます。
――これが新しい技術なのですね!オリゼーモルトを生み出すまでに大変だったことはなんでしょうか?
木下さん:まず籾を手に入れるのが大変でした。地域にもよると思いますが、関西では簡単に籾付き米は手に入りません。なので入手した籾で少量ずつ実験するために、実験用機械も自作しました。
――研究のために実験用機械も作ったのですか?!
木下さん:はい、CAD(図面の作成を行うためのツール)を勉強し、自分で設計図を作り、組み立てました。電気配線や3Dプリンターなども自分で行い、籾麹の練習を行いました。
――ないものを生み出す、その研究のためのものも作りだしたということなのですね。創業当初からの夢を叶えたこと、本当にすごいと思います!今後オリゼーモルトを使ったラインナップが増えていくのですか?
木下さん:オリゼーモルトを使用したIPAも定番商品として醸造する予定です。
――今後オリゼーモルトと共にこんな展開をしたい!などという夢はありますか?
木下さん:今後オリゼーモルトを使って、たくさんのブルワリーさんがビールを造ってくれたらいいなと思っています。
米麹を使ったビールで米の消費量を増やす、というのが当初からの目標なのですが、米麹は作るのに手間がかかり、保存も難しい。なので産業的なビールとの相性は悪かったのですが、オリゼーモルトであれは通常の麦芽と同じように保存、加工をしてもらえるので、いろんな方に使ってもらいたいです。
オリゼーブルーイングの集大成!夢のはじまりのビール、その味わいとは
「こんなことをやりたい!」夢を抱いて実際に走り出すことができたとしても、走り続けることは本当に難しいことです。
長い道のりを走り続け、ついに完成したOryzae Malt Pale Ale。どのような味わいなのか、実際にいただいてみました!
美しい色合いで、一口含むと麹の香りがふわりと広がります。そして続くのは柔らかな酸味と、モルトの香ばしさ。アプリコットやメロンのような香りが広がり、それらがバランスよく流れていきます。
それはまるで管弦楽器のような調べ。美しいハーモニーを確かめるべく、何度もグラスに口を運んでいるとあっという間に飲んでしまう、そんな味わいのビールでした。キリっと引き締まっているので、お食事にもよく合う1本です。
ラベルはシンプルな白に、一人の女性。これはORYZAE PALE ALEのラベルにいた3人娘のひとりだそう。5年間なかなかうまくいかなかったペールエールを1から再スタートする、そして今度こそ花開かせる!そんな木下さんの想いが込められたデザインになっています。
オリゼーモルトを使用したビールは、今後随時新作がリリースされていくとのこと。ぜひオリゼーブルーイングのHPをチェックしてみてくださいね。
商品概要
商品名:Oryzae Malt Pale Ale
原材料:オリゼーモルト、米麹、糖類、ホップ(ロットによりオーツ麦)
原材穀物には米由来のものだけを使用。国産では希少なグルテンフリーのビールです。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。