[コラム,テイスティング]2024.7.29

笹が入っているビール えっ!? こんなものまでビールの副原料に?

ビールは麦、ホップ、酵母、水を主原料として造られるお酒ですが、実は「こんなものまで!?」と驚くような副原料を使うこともあります。

今回は、油伝麦酒(あぶでんばくしゅ)が笹を使って醸造した「サササのエール」についてご紹介します。

油伝麦酒嘉右衛門町店でいただくサササのエール

サササのエールとは?

SNSでなんとなく画面をスクロールしていると、「サササのエール」の文字が目に入ってきました。
名前でまず「なんだそれ」と思い説明を見てみると「笹」の入ったビールって……珍しすぎませんか!

笹を使ったビールは初めて見たので、どのようなビールなのか調べてみたくなりました。

サササのエール商品紹介POP

「サササのエール」笹・ササニシキ・サフランを副原料にしたペールエールスタイルのビールです。

「サササ」は3つの副原料それぞれの頭文字から付けられています。

醸造所の油伝麦酒が栃木ビアフェスタ2024に参加した際に、「左手で飲むと味わい深く感じるビール」というテーマで醸造したビールです。

油伝麦酒とは?

油伝麦酒嘉右衛門町店の外観

「サササのエール」を醸造したのは油伝麦酒。

江戸時代末期である1781年に油屋として創業、幕末以降はみその製造・販売を行ってきた栃木県栃木市嘉右衛門町の油伝味噌株式会社がつくるビールブランドです。

蔵の街として街歩きを推奨する栃木市内、クラフトビールを造るブルワリーがないことを憂いた9代目社長の小池 英太郎さんが2023年5月からクラフトビールの自社醸造を開始しました。

実はすべてのビールに味噌を少し入れている、という味噌屋ならではの特徴があります。 

登録有形文化財である建築物がお店になっており、抜群の雰囲気の中クラフトビールを飲むことができます

そもそも笹って食用? 

笹といえばパンダが食べているイメージですが、私たちは笹を食べる習慣はありません。
ちまきや笹団子などに使われることはありますが、すべて飾りや包みとしての用途です。

では笹を食べることはできないのでしょうか?
調べてみると、若く柔らかい葉を天ぷらにして食べることはあるようです。

しかし、一般的に笹は食用にするには固く、料理に使われることはありません。

なぜ笹をビールの副原料に? 

「笹をビールに使おうと思ったのは、単なる思いつきです」
ビールに使った理由を小池さんに聞いてみると、そんな答えが返ってきました。

「えっ!? そんなノリで!」と驚き、さらに話を聞いてみました。

「もともと栃木ビアフェスタ2024の、テーマに沿って造ったのがきっかけです。『左手で飲むと味わい深く感じるビール』というあまりにも縛りがないテーマだったので、自分の中で『左』を『サ』と読んでダジャレにしようと思ったんです。そこでまず『笹』が決まりました。」

ササニシキとサフランも同様に「サ」から始まるダジャレで思いついたとのことです。

普段から、嘉右衛門町店・ビールフェス出店時共に計4タップのうち、フルーツやスパイスなどの副原料を使った一風変わったビールを1~2タップ用意されてる油伝麦酒。

小池さんは、既に人気のあるブルワリーが多い栃木県内のクラフトビールの中で、どうしたら昨年から始めた油伝麦酒をビールファンが「面白い」と思ってくれるかを常に考えています。

まさにエンターテイナーですね! 

笹のビールへの入れ方・目指した味

硬い笹の葉は細かく刻み、その精油成分を使っているそうです。

詳しい笹のビールへの入れ方は、北海道産の「クマザサ」を刻み、麦汁と共に煮沸させます。
そこから精油成分を抽出、刻んだ笹自体は取り除き、その後はエールビールとして発酵工程に移ります。

実は、笹の入れ方には少し悩まされたと聞きました。
発酵前や発酵中に笹を入れてしまうと、笹の殺菌・防腐効果で発酵が止まってしまう恐れがありました。

そのため、タイミングや入れ方について笹のビールを造ったことがある栃木マイクロブルワリーにアドバイスをもらったとのことです。
調べても履歴すら少ない”笹を使ったビール”なのに、栃木県内に笹を使ったビールを造ったことがあるブルワリーが少なくとも2つ存在することは驚きです。

目指した味・香りは、イングリッシュペールエールのような爽やかな口当たり・飲みやすさでした。
笹の香りを強く出すために、ホップの苦味をあまり押し出しすぎないようシングルで仕込んだと伺いました。

「居酒屋で働いていたとき、料理の飾りで使っていた笹にたまたま熱湯がかかったんですよ。それがとてもいい香りで、『サササのエール』ではその香りを表現したかったんです。」と小池さん。

笹に熱湯をかけたときの香りがどのような香りなのか、実際に試してみたくなりますが、「サササのエール」を飲んで、その香りを体感してみましょう。

実際に「サササのエール」を飲んでみました!    

サササのエールを注いでいるところ

外からの光に透かした「油伝麦酒」のロゴが浮かぶグラスに黄金色のサササのエール

やや濃いめの黄金色で、グラスの向こう側の柄が透ける透き通った液に、薄黄色がかった泡が浮かびました。

顔にグラスを近づけると、目の前を緑豊かな草原の風が駆け抜けたような爽やかな香りがします。

口に含むと、香りから想像されるよりはるかにマイルドで、ドリンカビリティの高さが伺えるすっきりしたエールビールです。

草原の風を感じるアロマと、鼻に抜ける華やかなフレーバー。
その香りを邪魔しないよう、ホップ由来の苦味は控えめで、時々軽いスパイシーさが出てくるというリズミカルな印象でした。

「実は笹は思ったより香りが残らなくて。少量しか入れていないサフランの風味が強く出ちゃいました。泡の黄色もサフラン、香りで感じられる草花の感じもきっとほとんどがサフランです(笑)」

小池さんの言葉通り、確かに感想でお気付きの方もいらっしゃるでしょうが、第一印象では笹の香りを感じられませんでした……

笹が感じられないのが悔しい!
そう思い静かに、飲みすすめながら笹を探すと、記憶の中にある七夕飾りの笹の葉の香りが、徐々に感じられるようになってきました。

時間の経過と共にビールの温度が上がったせいか、目を閉じるとサフランの華やかさより遠くに笹の群れの情景が浮かびました。

笹を探しながら飲んだこともあり、あっという間の一杯でした。

すっきりした味わいなので食中酒としてもいろんな料理に合いそうですが、ぜひビール単品で、香りの奥行きを存分に楽しんでみてください。

副原料はビールの「面白さ」の表現の一つ 

「多様化するクラフトビールブルワリーの中で、飲んでもらうきっかけを作るためには、麦・ホップ・酵母・水以外の副原料で、思わずビールファンが『えっ!?』と驚く『面白さ』を作ることも大切な手段です。」と小池さん。

私はまんまと「えっ!? 笹!?」と思ったので、術中にはまっていたようです。

ノリや思いつきから醸造される、マイクロブルワリーならではの副原料のチャレンジにこれからも注目していきます。

 

油伝麦酒(あぶでんばくしゅ・油伝味噌株式会社)
住所:栃木県栃木市嘉右衛門町5-27
電話番号:0282-22-3251
営業日時:土日祝 販売:10:00~17:00
         飲食:11:00~16:30
     平日  販売:10:00~16:00
         飲食:11:00~15:30
定休日:火曜・水曜(祝日は営業)
公式ウェブサイト: https://abudenmiso.wixsite.com/website
公式Instagram: https://www.instagram.com/abuden_official?igsh=ZzcxYnYwZzV3bGhp&utm_source=qr

クラフトビールペールエール副原料油伝麦酒

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

アバター画像

この記事を書いたひと

イトユナ

ビアジャーナリスト

◆栃木県在住 会社員
◆青山学院大学総合文化政策学部卒業
◇静岡県浜松市生まれ栃木県宇都宮市育ちの餃子の申し子(自称)
◇「好きになったものをとことん深掘るオタク精神」が自他共に認める取り柄
◇ビールはジャケ買いしがち
◇ヨーロッパのサッカーを観ながら飲むビールが至高

ストップ!20歳未満者の飲酒・飲酒運転。お酒は楽しく適量で。
妊娠中・授乳期の飲酒はやめましょう。