クラフトビール輸入業者に聞く 注目の醸造所・ビアスタイル・ホップは?
あなたが飲んだことのある外国産ビール、どんな人が、どのような思いで輸入したか知ってますか?
ビールを買い付け、輸入手続きなどを行う業者は「インポーター」と呼ばれますが、一部の会社以外は表舞台で見かけることが少なく、いわば「縁の下の力持ち」のような存在です。
かく言う私も、じっくり話をしたことはありませんでした。
日本にはいくつも輸入業者がありますが、今回そのうち5社が “主役” となるイベントが開かれました。インポーターと話すチャンスだと、私も現場に急行。各社の代表者に「いま飲むべきビール」や「海外のトレンド」などについて聞きました。
目次
海外インポーターのタップテイクオーバー
イベントが開かれたのは、東京にある立飲みビールボーイ・渋谷パルコ店。ふだんは日本のビールを中心に、ときおりアジアの銘柄がつながる店ですが、イベント当日は異なる様相でした。店内のタップ(樽からの注ぎ口)10本が、すべて外国産のビールで占領される「タップテイクオーバー」が行われていたのです。
参加したインポーターはアメリカやオーストラリア、イギリス、ノルウェーなどから輸入している5社です。
店長の寺口圭さんによると「いつもは外国人客が多いこともあって日本やアジアのビールを提供していますが、日本人のお客さんと自分の勉強のためにアメリカやイギリスのビールをつなぎたい」と思ったのがきっかけ。
そこでツテをたどり、縁あって豪州や北ヨーロッパのビールを扱うインポーターとも出会い、今回の5社とイベントを開催することになったのです。
いま注目の海外ビール・醸造所・ホップは?
それでは、本題。参加したインポーターの方々に聞いたのは、次の質問です。
① 取り扱いブルワリー
② いま飲んでほしい海外ビールは?その理由は?
③ これから流行するor注目しているのは?
(醸造所・ビアスタイル・ホップ・副原料など)
④ 自社の輸入ビールが買える店・飲める店
株式会社ナガノトレーディング
① 取り扱いブルワリー
ナガノトレーディングは、アメリカに強いこだわりを持つインポーターです。代表的なブルワリーを聞くと、最初に名前があがったのは「Stone Brewing」。
他にもSierra Nevada BrewingやPizza Port Brewingなどカリフォルニア州を中心に、ネバダ州のRevision Brewing、オレゴン州のDeschutes Breweryなどアメリカ全土から輸入しています。
② いま飲んでほしい海外ビールは?
いくつかお薦めビールを教えてもらいましたが、全てIPAでした。まずはFaction Brewing(ファクション・ブリューイング)のクリアなIPA系ビール。このブルワリーはワールドビアカップ2024で金賞を受賞した実力派で、最近クリアなIPAの人気が再燃している中で注目しているとのこと。
他にも「Stone BrewingやPizza Port Brewingなど、クラシックな正統派ウエストコーストIPAも改めて飲んでもらいたい。アメリカらしさを存分に味わってもらえると思います」と話してくれました。
③ これから流行するor注目しているのは?
注目しているのは、新品種のホップHBC586。米ワシントン州で開発されたもので、南国フルーツやシトラスのような香りに加えて、唐辛子のようなスパイシーさもあわせ持つ “超人気ホップ” です。
なお、前出のFaction Brewingがワールドビアカップ2024インターナショナル・ペールエール部門で金賞を受賞したのは、HBC586ホップを使ったPale 586(West Coast Pale Ale, 度数5.8%)でした。
※取材のあと、HBC586に「Krush」という正式な名前がつきました。今後は新ホップKrushに注目です!
さらに、いまアメリカでもニュージーランドのホップが人気だと聞きました。米国産ホップと違って、「ニュージーランドのネルソンやモトゥエカホップは、白ぶどうやキウイ、ピーチやライムのような香りとスパイシーさが特徴。IPAだけでなくセゾンやピルスナーのようなビールにも幅広く使える」ため、ナガノトレーディングで輸入しているブルワリーが最近よく使っているそうです。
④ ナガノトレーディングの輸入ビールが買える店・飲める店
直営店のアンテナアメリカは東京や横浜に4店舗あり、オンライン販売も行っています。
その他の情報は、公式サイト株式会社 ナガノトレーディングまで。
ファイブ・グッド株式会社
① 取り扱いブルワリー
こちらはアメリカでも、東海岸のビールを輸入するインポーターです。取り扱いブルワリーには「アザハ」と呼ばれる人気のOther Half Brewing、Captain Lawrence BrewingやIndustrial Arts Brewingなどがあります。
② いま飲んでほしい海外ビールは?
中村さんが教えてくれたのは、米バージニア州にあるThe Answer (ジ・アンサー) のビール。
この醸造所を立ち上げたのは、現地でベトナムレストランを営むアン・ブイさん。ブイさんは自らをCBO=チーフ・ビア・オフィサーと称して、レストランで国内外のさまざまなビールを提供。全米ベストビアバーに何度も選ばれています。
そして10年前、ベトナムレストランの隣にThe Answerのブルーパブをオープンしました。
醸造所は驚くほど小規模でありながら、IPAからフルーツサワーまでクオリティーの高いビールを造っているとのこと。皆さんも、見かける機会があったらぜひ飲んでみてください。
③ これから流行するor注目しているのは?
中村さんの予想は、今後しばらく低アルコールビールの割合が増えていくこと。その中で「クラフトビールとして新しいスタイルが生まれてきてほしい」と語ってくれました。
飲みやすいビールや新スタイルが登場することで、クラフトビールを飲む人の裾野が広がることに期待したいと思います。
④ ファイブ・グッドの輸入ビールが買える店・飲める店
直営店はありませんが、全国の酒販店・飲食店・小売店で取り扱っています。
その他の情報は公式サイトファイブ・グッド株式会社まで
株式会社ulu(ウル)
① 取り扱いブルワリー
株式会社uluはHop Nation Brewing やHawkers Beer、Banks Brewingといったオーストラリアのビールを中心に、アメリカやカナダからも輸入しているインポーターです。
② いま飲んでほしい海外ビールは?
お薦めは、オーストラリアHop Nation BrewingのBuzzed (Red Double IPA, 度数8%) 。このビールは、ワールドビアカップ2024のアメリカンスタイル・アンバー部門で銅賞を受賞したThe Buzzの “兄貴分” のような存在で、より多くのホップとモルトを投入したものです。
Buzzedの香りは花やスパイスのようで、口当たりはシルキー。松のような味が押し寄せ、数口飲むとモルトのフレーバーが広がる「大胆なRed IPA」とのことです。
③ これから流行するor注目しているのは?
中川さんは、最近ヘイジー人気も落ち着いて、クリアなIPAやラガーに戻ってきていると見る一方、「そろそろサワーが流行してほしい」と言います。
そのわけは「自然発酵のワイルドエールもあるし、使えるフルーツの種類や度数なども幅広くて楽しい商品」だから。話を聞いていると、いろんなサワーの飲み比べをしてみたくなりました。
④ ulu(ウル)の輸入ビールが買える店・飲める店
輸入されたタイミングでよく卸しているのは、Two Fingers (池袋)とリカーズハセガワ本店 (東京駅)。在庫がない場合もあります。
その他の情報は公式サイト株式会社ulu(ウル)まで
イン・ビアーズ株式会社
① 取り扱いブルワリー
イギリス専門のインポーターでCloudwater Brew、DEYA Brewing、Beak Breweryなどのビールだけでなく、サイダーも含めて20社以上から輸入しています。
② いま飲んでほしい海外ビールは?
加賀美さんのお薦めは、タップテイクオーバーでも提供された2種です。
まずは左下の写真、Polly’sのSoma Centre (Fruited Gose, 度数4.4%) 。ブルワリーのPolly’sは、以前から出来の良いゴーゼをつくると感じていたそうで、ブラックカラント (カシス) とレモンが入ったゴーゼを輸入したそうです。
そして右上の写真、Pomona IslandとOvertone BrewingのCan You Pay My Telephone Bills? (IPA, 度数6.2%) 。こちらはヘイジーIPAが得意な2つのブルワリーのコラボビールで、ホップはシトラとサブロ、モトゥエカを使っています。ホップオイルのような印象が残るリッチな仕上がりがお薦めポイントです。
③ これから流行するor注目しているのは?
加賀美さんは、直近だと暑い季節にもピッタリなラガーやピルスナーが多くなると考えています。
そして少し長い目で見ると、既にじわじわとファン層が増えている「ワイルド (自然発酵) エール」は、幅が広がるジャンルだと捉えていると言います。実際に、イギリスでワイルドエールをつくる醸造所も増えていて、日本のビアバーからも問い合わせが増えているそうです。
④ イン・ビアーズの輸入ビールが買える店・飲める店
直営店 Warrior Celt /ウォーリアケルト(上野)は、自家製イギリスフードも楽しめるブリティッシュパブ。
Tokyo Beerzilla /トウキョウ・ビアジラ(浅草)は、イン・ビアーズの商品の全てが揃うボトルショップ&タップルームです。
その他の情報はInstagram公式アカウント@innbeers_beerandciderまで
レディバード・トレーディング株式会社
① 取り扱いブルワリー
最後に紹介するインポーターは、イギリスやスペイン、そして北欧から輸入しているレディバード・トレーディング。LERVIG(ノルウェー)やO/O Brewing(スウェーデン)、Naparbier(スペイン)などのビールを取り扱っています。
② いま飲んでほしい海外ビールは?
ノルウェーのクラフトビールを代表する醸造所のひとつLERVIG(ラーヴィグ)の3Bean Stout (スタウト, 度数 12%)を薦めてくれました。
レディバード・トレーディングが初めて取引をしたブルワリーがLERVIGで、その名を一気に高めたTasty Juice やSupersonicが有名ですが、坂本さんは「個人的にはラーヴィグと言えばスタウト」だと言います。お薦めの3 Bean Stoutはトンカ・ココア・バニラビーンズの3種類の豆を使った珍しいスタウトです。
③ これから流行するor注目しているのは?
坂本さんが注目しているのは、スペインのMeta Edabeak。2022年に創業されたばかりですが、現地では自然発酵のファームハウスエールの作り手として高い評価を得ているそうです。
名前のEdabeakは「調合」の意味で、ブルワリー(醸造所)とは名乗っていません。これは、ビール醸造に限らず、ワインやミード、季節のフルーツを使った発酵ジュースなどもつくっているため。
「ぜひ日本の皆さんにも飲んでほしい」と輸入を決めたそうで、以下の直営店などで買うことができます。
④ レディバード・トレーディングの輸入ビールが買える店・飲める店
直営店は Ladybirds Bottle Shop Tsukiji (築地)。
その他の情報は公式サイト レディバード・トレーディング株式会社 まで。
インポーター5社の取材を終えて
今回、5社のインポーターを取材する中で興味深いことがありました。注目しているビアスタイルを聞いたところ「クリアなIPA」「低アルコールビール」「ワイルドエール」「ファームハウスエール」と答えが割れたのです。これは日本の市場が、より多様なビールを受け入れるようになったということでしょうか。
一方、複数のインポーターが口をそろえたのは、数年前から続く「円安」の影響でした。取材の後、急激な円安に歯止めはかかりましたが、それでもコロナ以前の1ドル=約110円と比べると、いまも輸入業者は厳しい状況が続いています。
記事を読んで「インポーターを応援したい」と思った方は、ぜひ紹介した銘柄を飲んでみてください。ビールを「造った人」と「輸入した人」、両方の熱い想いが感じられるはずです!
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。