ディスカウントストア「ドン・キホーテ」からオリジナルビール4種発売!
「激安の殿堂」のキャッチコピーで知られる、ドン・キホーテから、オリジナルビールが発売したとSNS上で目にしたので、早速購入し飲み比べてみました。
その名も「今日は「ド」のビール?」
今回はそのテイスティングレポートをお送りします。
目次
オリジナルブランド「情熱価格」シリーズから4種類の発売
オリジナルブランド、つまりプライベートブランド(PBと略される)からの発売ですが、HPによるとドン・キホーテではPBは「ピープルブランド」の略称という扱いです。
一般的にPBと言えばプライベートブランドのことを指しますが、ここにはドン・キホーテにおける経営指針を見て取ることができました。
※実質的にはほぼ同義ですが、以下本記事内でピープルブランドのことを敬意を払い「PB」と表記します。
一般的なプライベートブランドのことを「オリジナルブランド」と表記することとします。
一挙に4種類も発売なので、ある程度開発期間を設けていたことは明らかでしょう。
ドン・キホーテのオリジナルビールは初めてではない
その前に補足しておきたいのが、オリジナルビール商品は今回が初めてのリリースではないという点です。
三重県の伊勢角屋麦酒とのコラボレーションで「DANK IPA」を発売していたこともありますし(8/14現在入手できず)、
ノンアルコールビール商品ではありますが、「オルジュ ゼロ ノンアルコール」は情熱価格のページにも掲載がある通り、現在取り扱いがあります。
オリジナルブランドを企業が展開するときに真っ先に気をつけるポイントは、全国展開しているメーカーであれば、
「安定した供給が全店舗に行えるかどうか」でしょう。
首都圏を中心に多くの店舗数を擁するドン・キホーテとしては、発売すれば売上が見込めるとは言え相当な醸造量が担保できる醸造場を確保する必要があるため、
慎重に計画を進めていたのではないかと想像されます。
東京駅八重洲地下のお酒ドンキ展開で培われたノウハウも活かされていることでしょう。
テイスティング
前置きが長くなりましたが、テイスティングに移りましょう。
こうして並べてみると、パッケージデザインに非常に目が引かれます。
膨大な商品数が陳列されているディスカウントストアでは、各商品についてスタッフが逐一解説するのは物理的に限界があります。
そこでドン・キホーテは「商品自体に商品の説明をしっかり記載する」ことでストーリーと視認性の訴求性両方を高めたのではないでしょうか。
スタイリッシュとは言えないかもしれませんが、これは非常に合理的な判断ではないだろうかと、個人的には好感でした。
逆に言えば「アーティスティックなデザインのクラフトビールを多く扱う店舗ではスタッフによる解説が鍵になってくる」可能性が高まる、とも言えます。
ここで、缶を見てみると、気になる記載がありました。
原産国名:ベトナム
輸入者:株式会社パン・パシフィック・インターナショナル・トレーディング
調べてみたところ、株式会社パン・パシフィック・インターナショナル・トレーディングはドン・キホーテの親会社のことなのですが、
なんと、ビールは日本で生産された商品ではなかったのです。
日本にも、そういった形式を採用した商品はいくつか存在します。
ex)馨和 KAGUA /Far Yeast Brewingはベルギー製造商品
醸造委託先の記載がなかったためドン・キホーテに問い合わせてみました。
しかし、醸造所については「企業秘密」という回答でした。
少し残念でしたが、それぞれの企業イメージを守るための合議の結果かもしれませんので、そこは尊重されるべきですね。
では、実飲です。
PALE ALE
■度数:6%
■色:少しくすんだゴールド
PALE ALEとありますが、鼻を近づけるとシトラス、特にみかんジュースのようなアロマが香ってきます。
よってスタイルはアメリカンペールエールですね。
柑橘系の香りの奥に少々カーボードのような印象も抱かせます。液の方にもレモンのような酸味があり、それにより総じて軽やかな口当たりに。
また、軽やかな苦みに良好な甘味でうまくバランスをとっています。
読書やゲーム中など「ながら」でゆっくり飲むときに適していると感じました。
HEFE WEIZEN
■度数:5.5%
■色:澄んだゴールド
次はHEFE WEIZENなのですが、ここで缶の表記を見ていて一つの事実に気づきました。
「へーフェヴァイツェン」と表記されているにも関わらず、「オレンジピール」「コリアンダー」を使用している記載があります。
上記の副原料はドイツではなくベルギー発祥の伝統スタイル「ベルジャンホワイト」の特徴と合致します。
審査員としての経験がある立場から述べさせていただくと、
「へーフェヴァイツェン」と「ベルジャンホワイト」は全く違うスタイルです。
大きく分けると同じ小麦を使用した白ビールの一種ですが、それぞれの成り立ちは国の歴史背景を反映した存在でもあり、
仮に審査会で出品された場合は、どうしても減点せざるを得ません。
どこかで認識を誤解してしまったのでしょうか。あるいは、マーケティングによるものか…
どちらにせよ、メーカーは「ビールのスタイルに則ったビール」だけを作るためにビールを作っているわけではないのも事実。
また、飲み手にとって大切なことは、「また買いたいと思う商品か」どうかではないでしょうか。
本記事は審査ではなくテイスティングレポートですので、実際に飲んでみて冷静に分析を行うこととします。
外観から。細かいことを言えば、へーフェヴァイツェンとしては白濁が一目でわかるほど弱く、クリスタルヴァイツェンというスタイルのほうが納得する、澄んだ液色です。
また、ヴァイツェンの特長であるはずの泡持ちも良くなく、すぐに消えてしまいました。
オレンジの香りはありますが、もう一つの特長であるクローブ(丁子)のニュアンスも弱いです。
このビールはベルジャンホワイトスタイルに限りなく近いですね。
それでもオレンジピールの煮沸時間が長いのでしょうか、苦みが長く舌に残り、渋みも少々出ています。
とはいえ全体的には軽快でリフレッシングな爽やかさは感じられました。
このビールは気分転換に向いていますね。
INDIA PALE ALE
■度数:6.5%
■色:濃いゴールド
INDIA PALE ALEからはグレープフルーツの果皮アロマ、または白いわた部分の奥に苦みがある香りを感じ取れます。これはアメリカンIPAスタイルですね。
飲み込んでみるとホップのビタリングしっかり、香りから嚥下後まで終始苦みが力強い、謳い文句通りのホッピーな設計!
軽いパイニーさ、パイナップルも感じる味わいに酸味がうまく寄与しておりフレーバーは良い反面、ボディがやや重く感じるため堅牢な造りだと言えます。
ホップの品種名はわからないものの、ホップとモルトレベルの拮抗はあるのでバランシングもされた「ガツン」と系ですね。
これは疲れているときや、お風呂上がりに喉を鳴らしてゴクゴクっといきたくなるビールです。
STOUT
■度数:6%
■色:限りなく黒に近い焦げ茶
写真では判別しにくいですが、かざしてみると液色が茶色がかっていることが確認できます。
程よいロースティアロマの中に、秘めやかな甘さが隠れています。
香りからは甘みがありミルクスタウトを想起させるも、実際の液は意外としっかりドライ。特徴としてはアイリッシュドライスタウトに通ずるバランスでした。
黒ビールにありがちなオイリーなもたつきはないため体感はあっさり感じられる…と思ったら米を使っていたのですね。
しかし米を使用しスッキリさせてもドリンカビリティをギネスほど感じられないのは、焙燥が長かったりミリングに粗さがあるのか、を個人的に考えました。
その代わり、黒ビールと言えば重厚なイメージがありますが、このビールは夏でも飲めるバランスで、ローストの香りはしっかり楽しめるというスペックになっています。
お肉料理に合わせたり、締めの一杯に合いそうです。
総評
前述の通りHEFE WEIZENについては無視できないポイントがあったものの、
店舗により多少値付けに差があるかもしれませんが、どのビールも「このクオリティが200円台という価格設定で楽しめるのは日常使い用に有り難い」という率直な感想と、
ドン・キホーテという大きな商店の来客層に4種類ものテイストが違うビールを提案してくれたことを素直に嬉しく思いました。
余談ですが、筆者が購入の際は初回同時購入キャンペーンが開催されており、さらに安価で購入することができました。
終わりに
企業にとって、オリジナルブランドに注力するメリットはいくつかあります。
主要なものとしては、
・自社のファンの囲い込みに繋がる
・コストが抑えられる
ことが挙げられます。
奇しくも、生産コストは世界的に現在上昇の一途をたどっているので、利益を守るためにオリジナル商品の開発に力を入れるのは自然なことです。
また、なぜ醸造委託先にベトナムが選ばれたのかもいくつか推測できる理由がありますが、
・日本で委託するには十分な醸造量を予算内で確保できない
・アジアのビールの評価が高まりつつある
ことが挙げられます。
ベトナムのクラフトビールと言えば、日本のクラフトビールファンからすると数年前に輸入されていた「Heart of Darkness Brewery」(現在正式輸入はなし)が思い起こされるかもしれません。
あるいは、現在日本にも輸入されている「Pasteur Street Brewing Company」
この二社がベトナム国内のクラフト路線のパイオニアとされています。
実は、東南アジアは酒税に関する法規制が厳しい地域が多く、新規のマイクロブルワリーを立ち上げるのも、大手より値段が高価になる商品を売るのも難しく、まだまだ多くの参入障壁がある地域。
国内で醸造所を立ち上げることができないためわざわざ近隣国に立て、そこから輸入する形をとっているメーカーも中にはあります。
ただ、例えばタイでは2022年に規制緩和があり醸造に必要な量が下げられたり、
Asia Beer Championshipなど大規模なアジアのビールの審査会、ビールイベントが開催されアジアのビールが世界から注目を浴びるなど、
アジアのビールを取り巻く状況に変化が起き始めています。
また、今回興味深かったのは、缶の記載にもある通り「ダメ出しの殿堂」という特設が存在しており、ドン・キホーテが積極的に「ダメ出し」を聞こうという姿勢を持っていることです。
これにより、商品の改善を行ってくれるのではないか?という期待を私達は持つことができます。
現に、ダメ出しからの改善で売上を伸ばしているようです。
ユーザーのダメ出しから商品改善を続けるドン・キホーテの魅力!「プライベートブランド」から「ピープルブランド」へ
筆者としては、新しいビールが誕生したことを喜ぶとともに、ますますの業界のクオリティの向上に繋がれば幸いだと思っています。
ビールを愛するみなさまに、乾杯。
※いたずら目的や激しい言葉を使っての問い合わせ、過度なダメ出しへの投稿はメーカー様へのご迷惑となりますので、配慮ある内容を心がけていただくようお願いいたします
追記:8/17 誤字の訂正をいたしました
【参考リンク】
ドン・キホーテHPトップ
https://www.donki.com/
PPIHグループ店舗網NOW
https://ppih.co.jp/search/
アジア経済ニュース
https://www.nna.jp/news/2490679
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。