日本産ホップを使用したビールの考察 (特別編)
はじめに
今回は、サクランボ農家としてホップ栽培について考察していきたいと思います。なお、農作業の細かな部分は省略します。
わが町の果実の移り変わり
今から約40年前迄はリンゴ、ブドウ(食用ブドウ)、洋ナシの栽培が中心でした。その後、徐々に栽培の中心がサクランボとブルーベリーに変わり、10年前からはミニトマトが伸びてきました。特にミニトマト(愛子)の推進については町や農協も力を入れて現在に至ります。
その後、ワイン用ブドウ。そしてこの数年はシャインマスカットが栽培が増えています。
1パック(500g)3,000円の壁
リンゴや洋ナシは、収穫迄時間を要し手間暇かかるほか、天候により左右され収穫前に強風を伴う台風や強い寒気の襲来が来て果実が落ちたり傷つくと二束三文でしか売れず、安定した収入が難しいとの事で台風が来る前に収穫が終えるサクランボに切り替えていく農家が増えました。
しかし、サクランボは雨による割れとカビや病気に弱いためハウスをかけて栽培した方が良くその分の費用が毎年かかります(ビニールの付外し)。また、サクランボの実が成るためには3年はかかるので、どの農家もサクランボと何か(食用ブドウや野菜等)を栽培しています。
サクランボは他の果実と違い見た目が特に重視されます。また、ハウス栽培の有無で価格も変わります。例えばハウスの場合、単に1パック(500g)を詰めただけでは1パック平均800円(南陽3L)位でしか売れません。サクランボの芯が見えない様に綺麗に並べて詰めると平均3,000円(南陽3L)となります。この価格は市場の価格で税込みです。非ハウス(路地)はこれらの価格の平均70%です。
南陽3Lが現在北海道では高級品と言われていますが、サクランボの木が10年以上経過すると3Lは極端に減少します。2Lだと3,000円を下回ります。
南陽の次に人気の佐藤錦は2Lが最も大きく3L は規格外として扱われ、さらにほとんど収穫できません。その佐藤錦の2Lは南陽3Lの半値が平均です。
さて、この市場の平均価格はこの数年大きな変動はありません。ただ、昨年と大きく違うのはサクランボにかかる経費が大きく上昇したしたことです。
例えば雪解け時に散布するハーベストオイル(殺菌剤)は昨年は約8,000円。今年は約15,000円と倍に近くになりました。その他の農薬や機械を動かすガソリン代パックや箱代等全て昨年度より高くなっていますが、市場での価格上昇はありません。
正直、数年前までは現在の価格でも十分利益が出ましたが、現在の市場価格では農家だけで生計は厳しいと思います。
また、農業地帯は特に高齢化が進んでいます。選果する人やパック詰めする人がいない為、サクランボの木を伐りハウスを再利用して夏から秋迄収穫できるミニトマトに変えたり手間暇はかかるがパックに入れるだけで3,000円以上するシャインマスカットに切り替える農家が増えています。
その他、ワイン特区として町が指定され誰でもワインを造る事が出来るようになり町外からもワイン造りをしに移住してくる人が増えました。
しかし、残念ながら造られたワインは1本平均3,000円以上と高いため町内の人は道内のチェーン店のコンビニで格安のワインの方が安くて美味しい為、そちらを選んでいます。結局ワイン造りは通販か余市町にワイン製造者が組合みたいのを立ち上げ余市駅構内や駅前で販売しています。
ワイン特区になったため、ワイン用ブドウが必要とされ大手のワイン会社が中心となって農家と委託契約を結び、専用ブドウの生産も増えてきています。
考察
現在、ホップを栽培している人たちは農業経営(ホップ栽培し生産物を販売する。)の1つとしてホップを栽培している人とブルワリーの中でビール造りの為(ホップ栽培したものを直接ビールとして使用する。)ホップを栽培している会社の2通りあります。
前者のホップの自給率は「ビジネスニュース」によると2022年で5%未満で「東北農政局生産部園芸特産課(農林水産省)」の調べで令和元年度の生産量の約95%が東北地方で占めています。
そして、「日本産ホップ推進委員会」によると、令和3年(2021年)時点では、北海道(サッポロビール)、青森県(サッポロビール)、岩手県(アサヒビール、キリンビール、サッポロビール)、秋田県(キリンビール)、山形県(アサヒビール、キリンビール)の5道県で、大手ビール会社向けにホップ栽培が行われているという状況です。
ホップの取引も「ホップに関する資料」(全国ホップ農業協同組合連合会)によると1キロ当たり約2,100円とここ数年ほぼ同じ価格で推移しています。
私自身、ホップ栽培については、あまり知りませんがネットの「みんなで農家さん」を読んでみますと、農家にとっての一番のネックは植えてから根が張りそれなりの収穫迄5年はかかるみたいです。
ちなみに、サクランボの苗木を植えて収穫できるまで3年かかります。それより2年も長い期間ホップの収入は見込めず、他の農作物で生計を立てなければなりません。又、5年後に生産開始したとして1キロ当たり約2,100円だと農薬や農材の高騰につていけない可能性が非常に高いと思います。
人手がかかる収穫時期にボランティアを集めて手伝ってもらえる農家なら良いですが、ホップだけ栽培している農家でボランティアを集えない農家は、バイトを雇う事が出来ないため家族でやるしかないと思われます。農家として全体収入の中でホップの収入の割合を低く見積もっている場合、あるいは兼業農家であれば他の農作物の利益や勤め先の収入の一部を使いバイトを雇う事は可能だと思いますが、経営的に厳しいと思います。そのためにも、ホップの取引価格の充実が必要と考えます。経営が厳しい状況が続くと別な農作物に切り替えたり、離農する農家が増えます。
ビール造りの為にブルワリーの中でホップを栽培をしている場合はビール価格で吸収できると思います。
結論
ホップ造りを行う場合の課題として新規参入についてはホップが安定して収穫できる5年間は他の農作物を造って補うのか、あるいは、新規参入の前提としてブルワリーと委託契約を結び安定の収穫が見込める5年間も含め委託契約を結ぶのか等の課題があります。
新規参入の内、ホップ造りを廃業した農家から農地を購入し引き続き生産していく場合、さらに現在農業をして新たにホップ栽培を希望する農家の心配事項として、「日本でホップ栽培で経営できるのか」と言えば、ここ数年全国的にブルワリーが増加していることもあり、ホップの委託契約により未来は見えてくると思います。ただ、最低でも農家が赤字にならない程度の契約が必用でその分、ビールの価格が上昇にしてしまう点も課題としてでてきます。
さいごに
日本産ホップを使用したビールの考察の総括をしていきたいと思います。
参考文献および引用サイト
ビジネスニュース
東北農政局生産部園芸特産課
日本産ホップ推進委員会
「ホップに関する資料」(全国ホップ農業協同組合連合会)
みんなで農家さん
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。