[コラム]2024.10.9

【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 67~クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花 其ノ壱

ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です

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「敷地にさえいれてくれないって、どういうことだよ!ケチすぎんだろ、あのゴリラちょんまげ」

道修町薬種屋仲間前。尻もちをついたなおは、大声でぎゃんぎゃんと叫んでいた。

「こっちは客だぞ?せめてホップがあるかどうかくらい教えてくれてもよくないか?!」

「唐薬種を見せてくれないか」、そういって門を叩いたのは数分前。しかし入り口で門番の男たちに追い返されてしまった。それでもめげずに中に入れてくれと食い下がったなおは、六尺棒を振りかぶられ、門の外に転がり出る始末だった。

「こっちのことは客とすら思ってないんだよ」

ねねがため息をつく。一見のどこの誰だかわからない輩が、紹介状もなしに唐薬種を買えるはずがないのだ。

「目の前にホップがあるってのに……!喜兵寿、何かいい案はないか?」

なおの言葉に、喜兵寿が考え込む。

「……そうだ、幸民先生の名前を出してみるか!蘭学者として有名なお方だ、ひょっとしたらここにも繋がりがあるかもしれない」

しかし川本幸民の名前をだしたところで、結果は同じ事だった。筋肉マッチョな門番たちに問答無用で押し返される。

「誰かの紹介ならば、紹介状を用意しろ。まあ紹介状があったとて、蘭学者の連れが入れるはずもなかろうがな」

門番は薄く笑いを浮かべ、ぴしゃりと門戸を閉めた。それを見てなおはぎりぎりと歯ぎしりをし、地団太を踏む。

「なんだよ、あいつ偉そうに!もういっそ忍び込むか?もしくは強行突破しちまうか?!」

今にも突っ込んでいきそうななおの襟首を、喜兵寿は掴み持ち上げた。

「一度出直して策を練るぞ。あきちゃんのところへ戻るぞ」

(どうやっても無駄だと思うけど……)

ねねは喉元まで上がってきた言葉をぐっと飲み込むと、2人に向かって手を振った。

「わたしはここから別行動をさせてもらうよ。そろそろ荷主を集めて会合を開かなければならないからね」

その言葉を聞いた喜兵寿となおは慌ててねねに駆け寄り、その手をとった。

「もう行くのか。あまり無理しすぎるんじゃないぞ?何か困ったらすぐに呼べよ」

「大丈夫か?一人で行けるか?」

さっきまであんなに怒っていたにも関わらず、一瞬で表情の変わった二人を見てねねは思わず吹き出す。

「あははは!大丈夫だよ。命まではとられるわけじゃなし」

実際にはどれだけ詰められるかはわかったもんじゃないが、弱音を吐いたところでどうこうなるものではない。ねねは思いっきり口を開けて笑った。

「諸々片付いたら一杯やろう。それまでにそっちもほっぷを手に入れられていることを祈るよ」

―続く

※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

ルッぱらかなえ

ビアジャーナリスト

ビールに心臓を捧げよ!
お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター。
和樂webや雑誌「ビール王国」など様々な媒体での記事執筆の他、クラフトビール定期便オトモニでの銘柄選定、飲食店等へのビール提案などといった業務も行っています。
朝から晩まで頭の中はいつだってビールでいっぱい!

ビールの面白さをより多くの人に伝えるため、ビールをテーマにした小説「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗」を連載中。小説内で出来上がる「江戸ビール」は、実際に醸造、販売予定なので、ぜひオンタイムで小説の世界を楽しんでいただきたいです!

その他、ビールタロット占い師としても活動中(けやきひろばビール祭り、ちばまるごとBEERRIDE等ビアフェスメイン)
占い内容と共に、開運ビアスタイルをお伝えしております。

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