[コラム,テイスティング]2025.1.6

“あなたのホップ”がクラフトビールに!ホップオーナー権を買ってみた

ホップ好きの皆さん!ビールを飲むだけでなく「ホップを育ててみたい」「収穫イベントに参加したい」と思ったことはありませんか?でも栽培スペースがなかったり、産地が遠くてイベントに行けなかったりする人も多いのでは…

そんな中、“あなたのホップ”を栽培してくれて、収穫したホップでビールを醸造してくれるサービスを見つけました。九州のブルワリー、宮崎ひでじビールの「ホップオーナー制度」です。
宮崎ひでじビール ホップオーナー専用Facebookグループより

私(筆者)もオーナー権を購入しましたが、結論から言うと大満足!何がそんなによかったのか、体験記をお届けします。

ホップオーナーって何?

「ホップオーナー制度」に出会ったのは、ネットでビールを探していた時のこと。

宮崎ひでじびーるホップオーナー権 購入画面

この制度は、ひでじビールが栽培するホップ株の「年間オーナー」になると、返礼品がもらえるクラウドファンディングのような仕組みです。複数あるプランの中で、私が購入したのは「スペシャルオーナー権」。ビール12本と500円クーポンがついて8500円(送料込み)とお得なプランです。
※お手軽な6500円プランや、豪華な1万円プランもあり。楽天市場だけでなくYahooや、ふるさと納税でも購入可

他にも、こんな「特典」があります。
・自分の名前をつけたホップ株を育ててもらえる
・ホップの成長をSNSで限定配信
・ひでじビールの皆さんとオンライン飲み会
・収穫イベントへの招待。収量が多いと豊作賞あり
・名前入りオーナー証
・オーナー限定グッズ。2024年は帽子(1万円プランのみ)

ここまで読んで「お得なのは分かった。でも宮崎でホップが育つの?」と思った読者もいるでしょう。そこで、なぜホップ栽培に挑むのか、ひでじビールの方に聞きました。

宮崎でホップ栽培は無理!?

豊かな自然と清流に恵まれたひでじビール行縢(むかばき)醸造所

宮崎ひでじビール株式会社は、1996年に創業した前身の醸造所から続く、宮崎県初のクラフトビール専門メーカーです。ホップ栽培を始めたのは2016年のこと。

ホップは冷涼な気候が栽培に適していて、九州には先例がありませんでした。それでも挑戦したのは、会社が掲げる「宮崎産100%のビールを造る」という目標を実現するためです。

宮崎ひでじビールYAHAZU(宮崎産大麦100%)、 九州CRAFT日向夏、 栗黒

左からYAHAZU(宮崎産大麦100%)、 九州CRAFT日向夏、 栗黒

以前からひでじビールは酵母を自家培養し、大麦の栽培を農家に依頼して、麦を自分たちでモルトに加工。県産大麦だけを使ったピルスナーを発売しています。
さらに、地元の「日向夏」や「和栗」を使ったビールが、国内外の審査会で高い評価を得てきました。

こうして宮崎産の酵母・大麦・副原料の活用に成功し、ついに「ビールの魂」と呼ばれるホップ栽培に乗り出すことにしたのです。

ドイツ・バイエルン州でホップ生産者と話す永野代表(写真中央)

そこで代表の永野時彦さんは、はるばるドイツや岩手県のホップ生産者を訪ね、教えを乞いました。しかし、返ってくる言葉は「温暖な気候では無理」、「台風が来るからあきらめた方がいい」というものでした。

これが逆に闘志に火をつけました。永野さんは宮崎に戻って、農家に「失敗の可能性は高いが、夢を追いかけてみないか?」と打診。畑を借り、農家とひでじビールの社員が共同作業する形で栽培をスタートさせました。
すると…

栽培1年目のホップ 品種はカスケード

1年目から、数は少ないながらもホップを収穫することができたのです。
なぜ「無理」と言われたホップが栽培できたのか?永野さんは、こう説明してくれました。

宮崎ひでじビール代表 永野時彦さん
「課題だったのは7~8月の高温と、8~9月の台風。でも宮崎はホップの成長が早く、7月上旬に最盛期を迎えました。つまり、高温と台風が訪れる『前』に収穫できたのです。
実際にやってみないと分からない世界でした」

社内で最もホップ畑に出向くという代表・永野さん

こうして九州初となるホップ栽培事業が端緒につきましたが、収穫の多い年もあれば、少ない年もあります。

どうすれば、協力農家に安定して費用を払えるか…。いくつかアイデアが出た中で辿り着いたのが、全国にオーナー権を売り出す「ホップオーナー制度」だったのです。

オーナーになると“得るもの”

ホップオーナーになると、まず送られてくるのが「名前入りオーナー証」。木製のコースターに焼き印を入れたものです。

宮崎ひでじビールホップオーナー証とパンフレット

届いたオーナー証とパンフレット

正直に言うと「手作り感はあるが、VIP会員証のような特別感はない」と、拍子抜けでした。しかし後日、このコースターが最大で数千円の価値に化けることに…後ほど、詳しく説明します。

続いて、オーナーに届くのは専用Facebookグループへの招待。登録すると、限定配信される農作業やホップの生長を見守ることができます。これが、大変勉強になりました。

オーナー限定Facebookグループの投稿

例えば、右上の画像は「株ごしらえ」という作業のため掘り起こした株です。ホップが多年生植物なのは“言葉”としては知っていましたが、去年の株が残っていて、そこから今年も芽が出ている光景は初めて見ました。

この伸びた芽と根を剪定し、今年の栽培に備えるのが「株ごしらえ」だといいます。自分がオーナーになるホップ株はどれだろうと感慨深く眺めていました。

このように“言葉”としてしか知らなかったことが、Facebookを通した疑似体験で、ある種の“知識”に変わっていきました。

ピンチ!ホップが病気に

しかし…
実はこの時、宮崎のホップ畑では大ピンチを迎えていました。

病気になってしまったホップ株

一部の株が無くなったり、弱ったりしていたのです。専門家に見てもらったところ、原因は自然由来の土壌菌による「根頭がん種病」だと判明。

2つのホップ畑で栽培をしていましたが、メインの畑の4~5割がダメになってしまいました。

オーナーに経緯を説明する永野さん(右上)

「かなりショックだった」という、永野さん。オーナー権は「1人1株」という取り決めで販売済みでしたが、株の数が足りません。そこで、オンライン説明会を開き、「2人1株の共同オーナー制」に変更することへの理解を求め、代わりの特典についても発表しました。

新たに加わった特典はこちらです。
・オーナー証をイベントで見せれば1杯無料

あの木製のコースターがスタンプカード代わりになり、ひでじビールが出店するイベントでビールを1杯もらえるのです。私は3つのイベントで使ったので、計2100円をごちそうになりました。

さらに、こんな特典も。
・オンラインショップで使える2000円クーポン贈呈
・来年のオーナー権の割引

一方、メインの畑がダメージを受けたため、「収穫イベント」や「豊作賞」は中止に。その代わり、ひでじビールの代表やブルワーが東京・大阪・福岡・宮崎をまわって「オーナー交流会」を開催することになりました。

もちろん病気になってないホップも残っているので、これ以外の特典は継続です。

今回、1株を2人で分けるという大きな制度変更でしたが、全国に223名いたオーナーの誰ひとりとして、クレームやキャンセルを入れることはありませんでした。

むしろ「自然が相手だから仕方ない」「体に気をつけて頑張って」というメッセージが届き、永野さんはオーナーとの強い結びつきを感じたといいます。

宮崎ひでじビール代表 永野時彦さん
「クレームが入ったらオーナーの会費は100%返金するつもりだったが、逆に栽培の難しさやクラフトビールのありがたさが分かったという声を頂いた。
失敗を隠さず、さらけ出したことでオーナーとの距離が縮まったし、ホップのことを知ろうとしてくれる姿勢も強くなったと感じる」

ホップ栽培=エンタメ

いきなりのピンチに直面している間にも、病気をまぬがれたホップはすくすくと育っていきました。

4月上旬のホップ

こちらは「株ごしらえ」から3週間ほど経ったホップ。新しい芽が何本か出ていますが、1つの株に4本だけ残して剪定します。栄養の分散や、これから生えてくる蔓(つる)の密集を避けるためです。この4本の新芽を、オーナー2人で分けます。

さらに2か月後。こちらは筆者 Joe Beerskiの名札がついたホップの様子です。蔓の先を見てみると…

数十個の可愛らしい毬花(まりはな)がついています!この映像がひでじビールから送られてきた時は、産まれた我が子を見るような感動でした。

ちなみにホップ蔓は、各オーナーの名前で呼ばれているそうです。例えば「Joeさんのホップ~。雑草が増えたから抜いとくね~」みたいな感じだと想像しています。

宮崎ひでじビール 製造課長 兼 品質管理責任者の森翔太さん

製造課長 兼 品質管理責任者の森翔太さん

ホップ栽培のスケジュール管理や農家とのやりとりなどを担当しているのが、森翔太さん。ひでじビールのブルワーで、ホップ栽培にも最初の年から携わってきました。

森さんから聞いて驚いたのが「肥料」も自分たちで作っていること。ビールを仕込む際に出る麦芽カスに、地元の焼酎メーカーからもらった粕(蒸留後に残った有機物を含む液体)を混ぜて発酵させるそうです。
肥料まで宮崎産にこだわっているとは…

収穫の日のホップ畑

そして7月中旬。ついに収穫の日が訪れ、その様子がオーナー向けに「ライブ配信」されました。

ホップを摘む様子

これまで筆者は「収穫イベントに参加したい」と思っても、産地が遠く、予定も合わず断念してきました。しかしライブ配信を見ることで、収穫から摘果までの流れや、暑い中で作業する大変さが伝わってきます。

ホップをもつ片伯部工場長(左)と森さん(右)

後日、ビール醸造の様子もライブ配信されました。ビールの仕込みは別のブルワリーで体験したことがありましたが、ひでじビール独自の「ホップ -80℃冷凍粉砕法」や「蒸気殺菌法」などは、見るのも聞くのも初めてでした。

ホップを投入する契約農家の秋本さん

ホップは、もちろん宮崎産100%。圧縮したものなどと比べて、フレッシュホップが鮮やかな黄緑色をしていることに驚きました。

こうして、栽培から醸造まで半年間の作業を「エンターテインメント」として見て楽しめるようにすることも、オーナー制度の狙いです。

フレッシュホップエールの味は

宮崎ひでじビール フレッシュホップエール2024

約1か月半後、フレッシュホップエールが届きました。写真は、嬉しさのあまり何本も飲んだ後のものですが、実際に届いたのは12本。

内訳は、
宮崎フレッシュホップエールが8本
太陽のラガーが2本
九州CRAFT日向夏 無濾過プレミアムが1本
森閑のペールエールが1本です。

※本数はプランによって異なります

宮崎ひでじビールフレッシュホップエール2024

オーナー先行発送の宮崎フレッシュホップエール2024

待ちに待ったフレッシュホップエール。ビアスタイルは「ゴールデンエール」ですが、見た目は少し濃い黄金色です。鼻を近づけると、刈りたての青草のような瑞々しい香りがします。

口に含むと、グラッシーさ(草のような香味)に加え、強めの苦みがあります。そのため、アルコール度数は5%ですが、それ以上の飲みごたえを感じます。

2022年に飲んだ時の記録

ひでじビールのフレッシュホップエールは2年前にも飲んでいましたが、当時のメモでは「苦み」に言及していません。

ブルワーの森さんに聞いたところ、2024年は麦汁を煮沸する前後と、発酵・熟成段階の計3回ホップを贅沢にを入れたため、苦みと香りが強いビールが出来上がったとのことでした。

個人的に苦いビールが好きなうえに、「自分のホップが入っている」と考えると、ビールが愛おしく、飲んでしまうのが惜しい気持ちでした。

(フレッシュホップエールの一般販売価格は税込み628円。次は2025年秋に発売予定です)

「ひでじビール愛」が芽生えた交流

オーナーになって、思いのほか楽しかったのは、ひでじビールの皆さんとの飲み会です。春から冬にかけて、オンライン飲み会に2回、リアル交流会は1回参加しました。

6月に行われたオーナー限定Zoom飲み会

実はオンライン飲み会が苦手で、最初は他のオーナーも静かでした。しかし、ひでじビール側はとにかく明るい!代表の永野さんを中心に、よく喋るわ、笑うわ。

これまで飲んできたビールの裏側に、こんな「温かい家族のような人たち」がいたのかと、ぐっと距離が縮まりました。

フレッシュホップエール完成記念の “株主総会”

2回目の飲み会は、特典のビールが届いた10月。各オーナーがフレッシュホップエールの感想を話すのを、ひでじビールの皆さんは食い入るように聞いていました。

ブルワーの森さんによると、自分の狙いを飲み手が感じてくれたかの「答え合わせ」ができるため、こうした交流は大事にしているということです。

12月に行われたオーナー交流会(東京)

そしてオーナー制度の締めくくりに、ひでじビールの方々が宮崎・福岡・大阪・東京をまわって、リアル交流会を行いました。筆者が参加した東京の会は、渋谷にある宮崎料理屋で開催。

地鶏の炭火焼きやチキン南蛮などにも負けない、しっかりした味のフレッシュホップエールに舌鼓を打ちました。

こうしてフィナーレを迎えた2024年のオーナー制度。最後に、ひでじビールの二人に今後の目標を聞きました。

製造課長 兼 品質管理責任者 森翔太さん

「自分自身、ホップを育てることで『農業とビールは密接につながっている』と考えるようになったし、オーナーの方々もSNSを通して感じてくれたと思います。
醸造と栽培の両方を行うのはかなりキツいですが、ブルワーとして原料の知識も増えるし、喜んでくれるお客さんがいるので引き続き頑張ります」

宮崎ひでじビール代表 永野時彦さん(車の中でインタビュー対応)

「オーナーさんに支えられてホップ栽培が成り立っているが、まだ収穫量が少ない。そこで2025年は大勝負に出て、新たに自社でホップ畑を開墾して、生産強化をはかります。
そうすればオーナーさんも増やせるし、限定ビール以外にも宮崎産ホップを使える。こうして、地方から全国にファンを広げていきたいと思います」

英語でFarm to glass (農園からグラスへ)という地産地消を表す言葉がありますが、今回まさに畑作りから醸造、そしてグラスで飲むまでの一連の流れを追うことができました。
オーナー制度を通してひでじビールのファンになった私としては、同社の「県産100%のビールを造る」という夢を、これからも応援していきたいと思います。
フレッシュホップフレッシュホップエールホップ宮崎ひでじビール

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

Joe Beerski (ジョー•ビアスキー)

ビアジャーナリスト

年間900銘柄を超えるビールを飲んでInstagramとXに投稿中。より広くコンテンツを発信しようとビアジャーナリストになりました。
いま人気のクラフトビールが「ブーム」ではなく「文化」として定着してほしい!そんな願いを込めて、国内外のビール・つくり手・売り手・イベント etc. について自分なりに発信します。

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