自由があふれるイタリアンクラフトビール
はじめまして。ビアジャーナリストアカデミー2期生の西林達磨です。イタリアといえばワイン? そんな常識をくつがえす素敵なイタリアンクラフトビールについてお伝えします。(取材協力『beer public space sansa』)
惹き付けるビール
ビッラ・アルティジャナーレ。その名も「職人のビール」。イタリアでクラフトビールを指す言葉だ。
イタリアンクラフトビールがこの頃賑やかだ。昨年8月、ワイン輸入・販売で有名な『エノテカ』が、COLLESIというイタリアンビールを初の取り扱いビールとして選んだ。今年2月には、イタリアのBirra del Borgo(ビッラ・デル・ボルゴ)醸造所とスコットランドのBrewdog醸造所がコラボした『ReAle in Kilt』が東京のビアバーにてボトル販売され好評を博している。
「イタリアのビールは、嗜好品としての楽しみ方を大事にしていますね。」
赤坂に昨年11月にオープンしたビアバー『sansa』の橋本一彦さんはそう話す。「お酒は嗜好品。だからこそいろんな工夫で美味しく飲んでもらうことが大切。イタリアのビールは、ボトルのヴィジュアルや飲み手への訴え方といった発想に長けていると感じます。」
すすめてくれたのは、『My Antonia』(Birra del Borgo醸造所。7.5%)。アメリカの著名なブルワリー『Dogfish Head』とのコラボで話題になった一品である。重厚な佇まいのボトルに、黄色い光の軌跡で描かれたラベルが鮮やかだ。アメリカンビールを愛する橋本さんからすると『Dogfish Head』とのコラボという時点で食指が動くそうだが、たとえそうでない人でも、この美しいボトルには瓶ビールの既成概念を打ち砕くインパクトがある。それに加えて、”Imperial Pils”という耳慣れないスタイルに胸躍る。
早速グラスに注ぐと、フレッシュなシトラス香と花のような甘いアロマが空中にひろがる。伝統的なピルスナーとは一線を画す、モルトの芳醇な味わいと華やかな柑橘のフレーバーが印象的。ホップ由来の苦味がウッドベースのような低い音を奏で続けてくれるおかげで、強いボディの割には喉越しは爽やかである。
なるほど、見た目やコンセプトで惹き付けておき、さらに味わいで遠慮なく実力を発揮するイタリア流の攻め方があるわけだ。
「料理のためにトスカーナのオリーブオイルを仕入れていますが、そのカタログに偶然ビールが載っていまして、注文して飲んだのがはじめてでした。」
それが今でも店で取り扱っているducato(デュカート)醸造所との出会いだと語ってくれた。
”2006年に若手3人で始めた新進気鋭の醸造所”(メニューより)からは、『La Luna Rossa』(8.0%)をチョイス。賞味期限は2050年(!)という超長期熟成を目指したサクランボのサワーエールだ。真偽はともかく、ビアラヴァー達の妄想を掻き立てるには十分な謳い文句である。
麦から出来ているとは思えない美しいルビー色に、飲む前から心奪われる。フローラルな香りが漂うも酸味は強烈で、ベルジャンランビックにも似たやや獣臭い風味がある。全体的にドライで、甘酸っぱいフレーバーも鼻と口から駆け抜けるように消えて行く。
「Borgoには『Rubus』というサワーもありますがそちらは木苺を浸けただけのもの。『La Luna Rossa』は樽熟成させているから酸味がまた異なりますね。」
世界1位の生産量を誇るワイン大国であるイタリアにとって樽熟成は身近な手法。その味に期待して間違いない。このビールもまた、飲み手の心をつかむのがうまい。
イタリアンビールを語るときに見逃せないのが、近隣のビール大国からの影響である。例えばドイツ。言わずと知れたビールの国であるが、イタリアンビールにとっては麦など原料の輸入元であり、スタイルの輸入元でもあるようだ。
テイスティングしたのは、GLADO PLATO醸造所の『WEIZEN TEA BIRRA』(4.5%)という、緑茶が0.9%含まれたビール。ヴァイツェンの風味を引き継ぎながら、比較的炭酸ガスが弱くまろやかな口当たりと喉越しで、緑茶によるシャープな後味が魅力的だ。これなら、寿司のような和食から濃厚なクリームソースをからめたフレンチまで幅広く合わせられる。緑茶のような一見風変わりな素材でも、オリジナルスタイルのキャラクターを崩さずに新しい味を生み出すセンスの良さを感じる。ドイツビール好きにこそオススメしたい。
ビールは「自由」だ
イタリアンビールを楽しみながら、橋本さんが何度か口にした言葉がある。ビールは自由なお酒だと。
麦は世界中のものが手に入るし、ワインの原料となる葡萄のように隣の畑だと品質が途端に下がるということもない。作りたい人が作れるお酒だ。飲む人の楽しみ方も自由だ。強い日差しの中、缶ビールのまま飲む楽しみもあれば、洒落たバーで料理とともにゆっくりと味わうこともできる。
だが、自由だからこそ、ビールをどういうシチュエーションで、どんな物語を感じながら飲むのかということが大切になってくるのではないだろうか。
例えば、日本とイタリアの共通点に思いを馳せてみる。
イタリアにおけるマイクロブルワリーの歴史はまだ短い。日本のクラフトビールが1994年、イタリアでは2年後の1996年に誕生し、『Unionbirrai』という組合には現在100以上の醸造所とブルーパブが加盟している。日本と同じように南北に細長い土地には四季があり、フィレンツェと東京の最高気温は年間を通じほぼ同じだという。ベルギーやドイツ、イギリスといった1000年以上のビールの歴史を持つ国々の間にはあるが土地は接しておらず、イタリアでは肩の力を抜いて様々な味わいにチャレンジできるのだろう。日本でも、山椒と柚子を風味付けに利用した『馨和(KAGUA)』(日本クラフトビール)や、セゾンとIPAの長所を生かした『インディアンサマーセゾン』(玉村本店)など独自の解釈によって生まれたビールが次々と現れている。・・・
そのほかにも、どういった飲み方を楽しむのかという問いかけに、イタリアンビールがたくさんの答えを用意していることを今回の取材を通じて確信した。「職人のビール」は、ビアラヴァー達のこだわりに堪えうる見た目の美しさ、特色のあるスタイル、繊細なテイストを備えているからだ。
優れた文学作品やアートは、様々な人に解釈されることでその深みを増していく。イタリアンビールも同じだ。それを飲む人たちがどんな楽しみ方を考えるのかによって、面白さが変わってくる。グラスによる違いを楽しむ、料理とのマリアージュを考える、他の国のビールと比較して新しい味を見つける、年を経て変化するフレーバーに期待して静かに寝かせる。イタリアンビールの自由とは、そんな数多くのたしなみ方を許容してくれる懐の深さにある。あなたもぜひ、自由なビールを味わってみてほしい。
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※本記事は2013年4月の取材に基づくものです。beer public space sansaでの最新の取り扱いビールはお店までご確認頂けますようお願いします。
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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。