[イベント,ビアバー,ブルワー]2025.3.8

《小川実咲さん》女性ブルワー 連載取材 「彼女がビールを造る理由」vol.7

クラフトビールのブルワリーで働く女性を取材する本シリーズ。

第7回は奈良県奈良市にある「奈良醸造」の小川実咲さんにお話を伺いました。

奈良醸造は2017年創業。県内の農業生産者や靴下メーカーとのタイアップなどブルワリーや地域を盛り上げる企画に積極的に取り組んでいます。そんな中、クラフトビールとサウナとスパイス料理をコラボさせる、小川さん発案の企画「BEER AFTER SAUNA おかわり」を2025年4月19日(土)に開催します。

「BEER AFTER SAUNA おかわり」とは

 

「BEER AFTER SAUNA」(2024)の様子

奈良醸造の敷地内でサウナとスパイス料理、そして奈良醸造のクラフトビールが楽しめるイベントです。昨年「BEER AFTER SAUNA」を初めて開催し、好評につき今年第2回目ということでタイトルに”おかわり”が追加されています。駐車場エリアに軽トラックサウナを2つ、テントサウナを8つ、仕込み水を使った水風呂も設置されます。水風呂は4月だと屋外に置いているだけで水温が上がってしまうので、醸造所で使用する水やビールを冷やす設備「チラー」を稼働させ水温を1°Cに保つ徹底ぶり!さらに貯酒タンクで作った炭酸水風呂も。(こちらは10℃に設定)

1℃に管理された水風呂

サウナと水風呂を楽しんだあと、奈良醸造のクラフトビールを飲むことができます(飲食エリアのみの利用も大歓迎!)。昨年は20種類でしたが、今年は増やしてなんと約30種類!そしてビールにも相性の良いスパイス料理店を4店舗招致。全国のファンも多く、小川さん曰く「料理はもちろんですが、お店の方達も大好きなんです」とのこと。

クラフトビールに触れるきっかけを作りたい

小川さんがこのイベントを企画したのはもちろんサウナ後にビールを飲むことが好き、スパイス料理が好き、という彼女の「好き」が根底にありつつ、クラフトビール業界の未来を案じ、もっと色んな人にクラフトビールを知って欲しいという思いがありました。

小川さん(以下敬称略)「クラフトビールの業界でブルワリーはまだ増え続けてるけれど、正直なところ飲む人が増えているわけではないですよね。市場が広がってないのが実情だと思うんですよ。今自分がブルワリーに勤めてて思うのは、飲食店もメーカーもみんな結局パイの取り合いをしているということ。裾野が広がらないっていうのは単純に寂しいですね。ビールのイベントも最近マンネリ化していると感じていたので、今までと違うアプローチで、新しい層にリーチしたいというか、ビールに興味がなかった人達に、ビールの面白さを知ってもらうきっかけを作りたいなと思い、このイベントを企画しました。」

「絶対にまたやってください!」というお客様からの声

ー昨年開催してみていかがでしたか?
小川「1日で250名以上の方にご参加いただきました。関東圏や、遠方からお越しになる方もいらっしゃいましたし、狙い通りサウナやフード出店者さんをきっかけに参加される方も。皆さんが楽しそうにしている姿をみて感無量でした・・・!初めてブルワリーを訪れる方も多く、このイベントがクラフトビールを飲むきっかけになったと手応えを感じました。”絶対にまたやってください!”と言っていただけた時は本当にやって良かったと思いましたね。」

「BEER AFTER SAUNA」(2024)の様子

パン屋さん、IT系、そしてクラフトビールの世界へ

小川さんの社会人スタートは意外にもパン屋さんで、その後IT系の仕事に転職。クラフトビールに出会ったのはその頃でした。

小川「元々飲みに行くのは好きでしたが、ある時ベルギーのデュベルにハマり、その後、国産のクラフトビールや海外からの空輸のビールを買い漁りました。あの時期にIPAは一生分飲んでしまったかも(笑)。今はランビックやビターが好きです。」

クラフトビールバーでアルバイトをしていた頃の小川さん

多彩な味わいがあるビールの魅力を知り、造りたいと思うようになった小川さんですが、ちょうどコロナ禍で未経験のブルワーの求人は滅多に無かったそう。それでも関わっていたくて、IT系の仕事をしながら副業でビアバーでアルバイトをしていました。その後、新潟のブルワリーで未経験でもOKという求人があり、ブルワーに転身。さらに理想のビールを造るため、奈良醸造へ移りました。

ロジカルな醸造で再現性の高いビールを

ーなぜ奈良醸造に入りたいと思ったのでしょうか。
小川「ロジカルなビール造りを学びたいという思いがありました。弊社代表の浪岡の言葉を借りると、奈良醸造のビール造りは”再現性”を大事にしているんです。理論に裏付けされたレシピがあれば、社内のブルワー誰もがそのビールを造れる、ということです。それによって、定番品の品質が安定する、というのはもちろんですが、違うビールを造る際に引き出しが多くなります。この方向に持っていきたいからこの引き出しを開けよう、さらにこの引き出しと組み合わせてみよう、ビール造りの面白さはそこにあると思っています。理系っぽい考えですよね、化学好きなのでそこが楽しいんです!」

それがうまく組み合わさって美味しくできたら嬉しい、それをお客様が美味しいと感じてもらえたらもっと嬉しいです!と目を輝かせます。

小川「逆に、ビールが思い通りに行かなかった時、ロジカルに理論立てて進めていると問題を切り分けることができます。なんとなくで進めているとトラブルシュートができない。その原因を切り分けられれば改善に繋げることができます。これはIT系企業で仕事をしていた時代の学びでもあります。もちろん100%これが原因と断定することはできないですけどね、常に仮説と検証を重ねています。」

イベントの企画提案から運営、その推進力も素晴らしい小川さんですが、ブルワーの仕事で一番好きなのは機械を操作して行う缶詰め作業とのこと。

奈良醸造の工場内にあるカンニングマシーン

小川「ブルワリーの中の仕事は全部面白いですがあえて言うと、すごくニッチなポイントですけど。。。笑、缶詰する際、泡を立てて蓋をのせるのですが、こんもりと立てた泡を切って乗せるのが大切なんです。ビールによって、すごく泡立って(暴れて)しまうものもあれば、中々うまく泡立たないこともあるので、きれいに泡を立てて、理想の状態で缶詰できると気持ちいいんです!」

クラフトビールの魅力は「多様性」と「人」

ー改めて、クラフトビールの魅力はなんだと思いますか?
小川「そうですね、まずは味の多様性ですよね。味は無限の広がりがあって、気分や体調に合わせて選べるところ。あと、業界の人がオープンなんですよ、すごく。例えば造り方でやってみて良かった事をみんなにシェアしてくれたり。隠して自分たちだけのものにするのではなく、業界が良くなるようにって考えてる人が多くて。というか、私の周りにはそういう人しかいないんです。だから、この業界の人が好きで私は多分ずっとここにいるんだろうなと思います。」

大阪本町のスパイス立ち飲み「フルクタス酒場」の店主・加藤夏樹さんと

実はこの取材は「神戸ビアジャンボリー25’」開催中に入り口付近で実施したのですが、取材中、たくさんの人々が小川さんに親しみを持って声をかけている様子を見て、彼女の人気を感じることができました。小川さんがブルワーとして直向きに醸造と向き合う姿勢や、クラフトビールファンを増やすべくイベントを企画し実行するその行動力に惹かれて良いムードの人が集まってくるのだろうなと思います。

“結局は人が好きって話になっちゃいましたね。笑”と、ビールを片手に少し照れながら語ってくれました。

 – BEER AFTER SAUNA おかわり-

【開催概要】
日時 
2025年4月19日(土)10:30-18:30 (L.O. 18:00)
            ※サウナエリア:11:30-17:00
場所 奈良醸造(奈良市北之庄西町1丁目8番地の14)
             イオンモール大和郡山より徒歩7分

【チケット】
一般入場券:500円(当日1,000円)
一般入場券+お土産ビール:1,100円(当日1,600円)
サウナ入場券:4,500円(当日5,000円)
サウナ入場券+お土産ビール:5,000円(当日5,500円)
醸造所見学予約ツアー:999円
※全ての入場券に、ワンドリンクがつきます。
詳細・チケット購入はこちらから↓
https://narabrewing.com/beer-after-sauna-okawari

FARMENTRY -BEER RUN MATE-ともスペシャルコラボ!

奈良県橿原市にあるFARMENTRYは2024年9月醸造開始。JAPAN BREWERS CUP2025にて「SPECIAL HOUSE LAGER」が淡色ラガー部門第1位を獲得した大注目の新生ブルワリーです。
 – BEER AFTER SAUNA おかわり-を開催する4/19、奈良醸造をゴールに走るランニングイベントを同時開催!

詳細・申込はこちらから↓
https://www.instagram.com/farmentry/

左:FARMENTRYヘッドブルワーの西崎さん 右:小川さん

 

「彼女がビールを作る理由」シリーズ記事
vol.1 BRIGHT BLUE BREWING 菊地望さん

vol.2 NAMACHAん Brewing 米澤美里さん

vol.3 和泉ブルワリー 松本さちさん

vol.4 ハーヴェスト・ムーン 園田智子さん

vol.5 さかづきBrewing 金山尚子さん

vol.6 仙南シンケンファクトリー 水戸美絵子さん

 

イベントブルワー

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

五十嵐 糸

ビアジャーナリスト

化粧品会社で16年間にわたり、営業・宣伝・PR業務等を経験。
楽しい時も辛い時も毎日ビールを飲んでサラリーマン時代を駆け抜ける。
大好きなビールについて勉強するうちにどんどんその魅力にはまり、PR経験を活かしてフリーに転身。ビールの美味しい飲み方や魅力を日々SNSや協会HPで発信。ビールを通したローカルコミュニティの活性化や、街の復興を目指し、渋谷の街のオリジナルビール「渋生」をプロデュース。

ストップ!20歳未満者の飲酒・飲酒運転。お酒は楽しく適量で。
妊娠中・授乳期の飲酒はやめましょう。