[コラム,ビアバー,ブルワー]2025.3.25

【東北で出会うビールの世界⑰】 ~東日本大震災伝承施設とビール~ 沿岸を車で走る(福島県いわき市編)

今月11日で東日本大震災の発生から14年が過ぎました。

2011年3月11日午後2時46分、三陸沖を震源とした東北地方太平洋沖地震が発生しました。この地震はマグニチュード9.0、最大震度7と日本観測史上最大規模で、地震による大津波が東日本の沿岸部を襲い、福島では東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「福島原発事故」)が起きています。
この地震による東日本大震災により東北を中心に甚大な被害が起こり、死者と行方不明者は避難生活など震災関連死を含めると2万2千人を超えています。そして東京電力福島原発事故により、福島県では今も7市町村に帰還困難区域が設定されています。

私自身は東日本大震災当時まだ東北にはいませんでしたが、その後岩手とは沿岸地域も含めていろいろなご縁をいただき、震災からの復興工事の経過や震災関連施設を何度も見てきました。その反面、福島や宮城の沿岸地域に関しては、岩手に隣接している地域を除くとほとんど行っていないか、行ってもただ通過しただけということがずっと心のどこかに引っかかっていました。
そこで今回東京から岩手まで車移動する機会を利用して、常磐自動車道(以下「常磐道」)を経由し少し時間をかけて東北地方の太平洋沿岸を走ってみることにしました。

マルトでベアレン醸造所の限定ビール購入

3月9日午前に東京をスタートし、常磐道を北上していきます。
この日の宿泊地の福島県いわき市へ向かう中で、まず立ち寄りたかったのがスーパーマーケットのマルト。いわき市内24店と茨城県沿岸北部13店の全37店舗を展開しているスーパーマーケットです。
このスーパーでは、岩手のベアレン醸造所雫石工場で造られたマルトオリジナルクラフトビール「プレミアムラガー」が売られています。ベアレン醸造所のビールは普通は限定のものでも岩手県内で買うことができますが、このビールはマルトのない岩手県では手に入りません。
いわき市にも店舗は多くありますが、念のためまず茨城県内のマルトに寄ってみることにしました。運転の休憩のタイミングなどを考え、140キロほど走った日立塙山店に狙いを定め、手前の日立南太田ICで常磐道を降り国道6号線に入ります。すると、あちらこちらにマルトの看板があり、何軒か店舗も通り過ぎることに。地域密着度がうかがえます。
お昼過ぎに日立塙山店に到着。

売り場を回り、無事に目的のビールを購入することができました。福島県産のフレッシュホップを贅沢に使用し、コクと苦みのバランスがよく、飲み飽きしないドイツスタイルの本格ラガーです。
岩手に縁がある方やクラフトビールが好きな人なら多分「ベアレン醸造所のビール」として探すと思うのですが、ここでは「マルトオリジナルのプレミアムビール」が前面に押し出されていて、どこが造ったビールなのかが分かりにくかったことが興味深かったです。この地域で生活している方々の大多数にとっては、どこが造っているかよりも「マルトが売っている」ことが大事なのでしょう。(人の価値観はそれぞれなので、そのことを否定するつもりはまったくありません。)

余談ですが、この日の夕方にはいわき駅から歩いて約15分のマルトSC平尼子店にも行ってみました。こちらはさらに品揃えが豊富で、つまみや夜食になるお惣菜もお手頃価格で美味しかったです。

いわき震災伝承みらい館

国道6号線をさらに北上していわき市内へ。

改めていわき市とは…

いわき市は、福島県の東南部に位置し、南は茨城県、東は太平洋に面しています。浜通り地域(沿岸地域)の行政・経済・文化の中心地で、面積は福島県内で最大。人は約31万7000人で、郡山市に次いで県内2位です。
東北地方の中では年間日照時間が最も長く、冬は内陸部よりも冷えにくく夏は内陸部よりも暑くなりにくいため、年間の寒暖の差が小さくなっています。
リゾート施設のスパリゾートハワイアンズをはじめ、アクアマリンふくしま、いわき湯本温泉など多彩な観光資源があります。
東日本大震災では、震度計の記録によると震度6弱の(一部地域では震度6強以上あったとみられている)揺れに見舞われ、小名浜港周辺や薄磯地区、岩間町など市内の沿岸各所で津波による被害がありました。またその後、震災に伴って起きた福島原発事故による影響や風評被害も受けています。

薄磯地区にあるいわき震災伝承みらい館を目指して、途中で国道6号線を外れ、海沿いへ。
手前にある豊間海水浴場では、海岸の堤防の後ろにクロマツが植樹され防災緑地ができていました。防災緑地は、津波による被害を軽減する防災機能だけでなく、地震や津波で失われた景観や環境の再生・形成機能や自然とのふれあいなどの場として活用する地域振興機能も有しています。
  

いわき震災伝承みらい館は、東日本大震災での津波被災地にあり、パネルや映像、被災した学校の備品など多様な展示を通して、いわき市における震災の記憶や教訓を伝える施設です。
こじんまりとした施設ですが、とても見やすくわかりやすい展示がされています。福島原発事故に関連する展示は、特に時間をかけてみてきました。


2階の展望デッキからは薄磯防災緑地も見えます。

◎いわき震災伝承みらい館
住所:福島県いわき市薄磯3-11
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜(月曜が祝日の場合は翌平日)、年末年始
入館料:無料
アクセス:常磐道いわき中央ICから約30分
     JR常磐線いわき駅南口からタクシーで約25分
     JR常磐線いわき駅南口または泉駅からバス乗車、灯台入口停留所下車徒歩3分
     

ホップジャパンTaproonいわき

いわき震災伝承みらい館から10キロほど内陸へ走り、JR常磐線いわき駅近くのホテルにチェックイン。この日の運転はここまで。ようやくビールを飲みに行けます。
向かったのは、駅ビルS-PALいわきの3階にあるホップジャパンTaproonいわき。S-PALいわきの3階入り口は、駅の改札口の並びにあります。

ホップジャパンについて

ホップジャパンは、阿武隈高原にある緑豊かな自然公園「グリーンパーク都路」(福島県田村市)に醸造施設を持つブルワリーです。
原発事故の影響でほぼ休眠状態となってしまったグリーンパーク都路を改修し、2020年8月にホップの栽培から手がけるクラフトビール醸造所「ホップガーデンブルワリー」を開設。ホップをふんだんに使ったビールで1次産業から6次産業化に繋げていくサイクルを一つのまちで展開し、「人」×「もの」×「こと」を繋ぐブルワリーを目指しています。

タップルームで飲む

タップルームは立ち飲みスタイルで、10数人でいっぱいになってしまうぐらいの小さなコーナーです。中のスタンディングスペースのほかに、通路の窓際でも飲めるようになっています。



この日つながっていたビールは、定番が5種類と限定を合わせて7種類。

最初に注文したのは、アルコール分4.5%のホワイトウィートエールのWhite。フルーティな香りで、苦みが少なく柔らかな口当たりのビールです。

2杯目に選んだのは、セッションヘイジーペールエールのAbukuma GOLD。アルコール分は5%。香りがとてもよく、まろやかな口当たりのビールです。

そして最後にどうしても飲んでみたくて頼んだのが、アルコール分8%と聞いて一度は見送った限定のImperial RED。

ここにはつまみがないためか軽く1~2杯飲んで移動する方が多い印象でしたが、日曜の夕方ということもあり次から次へとお客さんがきていました。

◎ホップジャパンTaproonいわき
住所:福島県いわき市平田町1 S-PALいわき3階
営業時間:12:00~21:30(ラストオーダー21:00)
定休日:S-PALいわきに準ずる

ならはパーキングエリアから北へ

そして翌日10日、さらに常磐道を北上して宮城県方面へ向かいます。
最初の休憩をとったならはパーキングエリアは、東日本大震災の影響および福島原発事故に伴う避難区域に一時指定されたことなどにより、当初2012年開設目標だったにもかかわらず供用開始が2019年3月までずれ込んだ施設です。
この周辺から北方面には、常磐道も含めていまだに放射能測定器が設置されています。

宮城県との県境までは約80キロ。この間にも被災した小学校を震災遺構として保存・整備した「震災遺構浪江町立請戸小学校」、双葉町の「東日本大震災・原子力災害伝承館」などの震災伝承施設があります。
また2020年8月にオープンした道の駅なみえなど、そこに暮らす人々のランドマークとして、そして町の復興のシンボルとしての使命も持って新たに誕生した施設もあります。

道の駅なみえ(2024年12月撮影)

今回は時間の関係で立ち寄ることはできませんでした。また改めてこの地域も訪問したいと思います。

*日付の記載がない写真は、全て2025年3月に撮影しています

いわきいわき震災伝承みらい館ベアレンホップジャパンホップジャパンTaproonいわきマルト

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

きただ ともこ

ビアジャーナリスト

ビールと旅と野球観戦が大好きです。
主に、ビールがどんな土地で造られてどんな感じで飲まれているかに関心があり、気になるビールが出来るとその地元を訪ねたくなります。日本全国たまには海外にも足を運び、特に国内は岩手、海外は韓国のクラフトビールに注目してきました。
ビール好きがきっかけで岩手にどっぷりはまり、2019年4月から岩手沿岸の仮設住宅に住みながらの仕事を経験。現在も岩手に拠点を置き、得た情報を実際にこの目で確かめながら、岩手中心に東北地方のビール事情を発信してきました。最近は、日本語での情報が少ない韓国のビールについても、現地に足を運んで手に入れた情報をもとに記事にしています。

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