【東北で出会うビールの世界⑲】 ~東日本大震災伝承施設とビール~ 沿岸を車で走る(宮城県石巻市・気仙沼市編)
今回の話は
【東北で出会うビールの世界⑰】 ~東日本大震災伝承施設とビール~ 沿岸を車で走る(福島県いわき市編)(2025.3.25)
【東北で出会うビールの世界⑱】 ~東日本大震災伝承施設とビール~ 沿岸を車で走る(宮城県東松島市編)(2025.3.27)
の続きになります。
目次
宮城県石巻市
車で道の駅東松島を出ると、すぐに石巻市に入ります。
石巻市とは
石巻市は宮城県北東部にあり、県庁所在地の仙台市からはJR仙石線と車のどちらでも約1時間で着きます。人口約13万人は仙台市に次ぐ県内第2位です。
北上川の恵みの大地と世界三大漁場の金華山沖を抱える自然豊かな食の宝庫です。
市内にある「石ノ森萬画館」は故・石ノ森章太郎の作品を展示するマンガミュージアム。JRの石巻駅からの道のりにはいたるところにマンガのキャラクターのモニュメントなどがあり、通称「マンガロード」と呼ばれています。
東日本大震災では甚大な被害を受け、死者数約3300人と一番多くの方々が犠牲になった自治体です。
2024年1月撮影
石巻市震災遺構大川小学校
今回は石巻駅周辺に立ち寄らずに、さらに先を目指しました。車がないとなかなか行けない場所に立ち寄ることを優先したかったからです。
最初に向かったのは石巻市震災遺構大川小学校。名前だけは聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
東日本大震災で本震発生後およそ50分経った頃、近くを流れる北上川を遡上してきた津波に河口から約5kmの距離にあった学校が巻き込まれ、児童と教職員あわせて84名が死亡した場所です。
学校南側の校庭すぐそばには裏山があったにもかかわらず避難場所を巡って議論が行われり行動が遅れた結果、学校の管理下にある子どもが犠牲になった事件・事故としては第二次世界大戦後で最悪の惨事となっています。
津波によって破壊された校舎の一部は、震災遺構として2021年7月から一般公開されています。周辺地域は災害危険区域に指定され、住むことができない地域になっています。
石巻市震災遺構大川小学校に向けて、国道45号線を外れ北上川沿いを河口方面へ10キロあまりずっと走っていきます。天気もよくこの日の北上川はとても穏やかでしたが、この先に震災遺構があると思うと、穏やかさが逆にもの悲しく感じました。
到着した石巻市震災遺構大川小学校は公園として整備されており、校舎、プール、屋外運動場、野外ステージが保存されているほか、展示スペースの大川震災伝承館や、花壇、慰霊碑なども設置されています。
遺構の中にはこと立ち入ることはできず、柵の外側から見学することになります。
写真やニュースでは何度も見たり耳にしたことのある場所でしたが、実際に現地に行ってみると建物の被害状やや周辺の地形などを実感することができ、今までになかったものも含め様々な思いが頭を駆け巡りました。震災前のここでの生活の様子なども伝承館で展示されています。
特にあまり震災に関する知識がない方には、何かをきっかけに一度は足を運んでみてほしい場所のひとつだと感じました。
◎石巻市震災遺構大川小学校
住所:宮城県石巻市釜谷字韮島94
開館時間:9:00~17:00
休館日:年中無休
入場料:無料
アクセス:三陸道河北ICから車で約20分
JR石巻線・仙石線 石巻駅から車で約45分
JR石巻線鹿又駅から車で約25分
(大川震災伝承館)
開館時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
休館日:水曜日(祝日の場合は開館し翌日休館)・年末年始
曜日に限らず開館する特別開館日あり
入館料:無料
鹿嶋神社(ビール神社)
次に向かったのは、石巻市北上町の白浜海水浴場近くにある鹿嶋神社。震災遺構大川小学校からは10キロ弱。新北上大橋を渡って川に沿って河口方面に向かいます。
鹿嶋神社は、通称「ビール神社」と呼ばれている日本唯一の神社です。この通称は、米が凶作で日本酒をお神酒として供えられなかったときに、何とか収穫出来た麦で造ったお酒をお供えしたことによります。すると豊作に恵まれたのですが、米が豊作となった年に日本酒に戻したところ流行病が蔓延し飢餓も発生してしまったことから、日本酒ではなく麦酒、そして現代ではビールをお供えするようになったとのことです。
ビール神社は東日本大震災の津波で杜殿は流されてしまったままで、小さなほこらだけが雨をしのぐトタン屋根で覆われています。白浜海水浴場はビーチパークとして整備されていますが、その地図にも今のところ記載がなく一度素通りしてしまいました。
周辺の土地ははかさ上げされましたため、現在は駐車場からすぐに歩いて行ける高さになっています。
現在は少し残念な状態のビール神社ですが、宮城県内のビールメーカー10社が協力して、この神社を再建するプロジェクトが今年2月に始まっています。年内中の着工を目指し、クラウドファンディングで資金を募るほか、新たに記念のビールもつくる計画もあるとのことです。
◎鹿嶋神社(ビール神社)
住所:宮城県石巻市北上町十三浜白浜227
宮城県気仙沼市
海岸沿いを国道398号線で走り途中から45号線に戻り北上します。南三陸町を通り、この日の宿泊地の気仙沼市に到着しました。
気仙沼市とは
気仙沼市は、宮城県の北東端に位置する市で、東は太平洋に面し、南は宮城県南三陸町、西は岩手県一関市および宮城県登米市、北は岩手県陸前高田市に接しています。人口は約5万6000人。
太平洋に面した沿岸域は、半島や複雑な入り江など変化に富んだリアス海岸を形成し、気仙沼湾は湾口に大島を抱き、四季静穏な天然の良港となっています。
東日本大震災では、震度5強~6弱を観測し、地震そのものの被害に加え、津波や津波火災、地盤沈下によって大きな被害を受けました。
BLACK TIDE BREWING
この日泊まる旅館は二食付き。夕食までの時間がクラフトビールタイムになります。
向かったのは、大津波により甚大な被害を受けた気仙沼の内湾地区にでき、「クラフトビールによるコミュニティーづくり」というキーワードのもと2020年に醸造を開始したBLACK TIDE BREWINGのタップルームです。
タップルームは、スタンディングテーブルが3つほどと、椅子で座れる丸テーブルが2つ。ビールの提供を始めてから何度か来ていますが、スタイルは最初からあまり変わっていないように感じました。テイクアウト用の缶ビールも10種類以上冷蔵庫に並んでいます。
この日つながっていた樽生ビールは8種類。まず最初に選んだのはSWAN DANCE。アルコール分6%で、スタイルはWHITE STOUTとなっていました。コーヒー、ココア、ココナッツ、バニラを使用しており、甘みのある香りとかすかなコーヒーのロースト感を感じました。
一杯だけでは旅館に戻るつもりできたのですが、どうしても今日飲んでおきたいビールがあったので、2杯目を注文。頼んだのは、アルコール分7.5%のPray for 3.11。未来への希望を込め、前へ歩みだせるよう醸したWEST COAST IPAです。
華やかな香りがあり柑橘感があるなかで苦みが全体を引き締めている感じで、一日を締めくくるのみふさわしいビールでした。
フードの提供はありませんが、持ち込み自由。この日は夕食が待っていたので何も買いませんでしたが、同じ建物の隣にある商店で、新鮮なお刺身やおつまみを買うのがお勧めです。
今年の1月には仙台にもBLACK TIDE BREWING-SENDAIを開店、気仙沼で第二工場計画もあるとのこと。しばらくBLACK TIDE BREWINGの動向から目を離せそうにありません。
◎BLACK TIDE BREWING TAP ROOM
住所:宮城県気仙沼市南町3丁目2-5
営業時間:平日:16:00~20:00
土曜:10:30~20:00
日曜:10:30~18:00
定休日:火曜日
アクセス:JR気仙沼線BRT(バス高速輸送システム)南気仙沼駅から徒歩約15分
三陸道気仙沼港ICから車で約20分
気仙沼市復興祈念公園
翌日月11日の朝、ホテルをチェックアウトしてまず向かったのは気仙沼市復興祈念公園です。
東日本大震災の記憶を後世に伝え復興を祈念する場所で、市街地からも近い陣山にあります。津波火災等で壊滅的な被害を受けた鹿折地区・内湾地区を眼下に見ることができて、地域の復興の様子を実感することができます。私は気仙沼だけは、震災前の姿も震災から1年経っていない時期の姿も見ており、あの頃には考えられなかった光景が広がっていると感じます。
公園内には復興祈念のシンボルとなる祈りの帆(セイル)があり犠牲となった方々の名前を刻む銘板が配置されていて、いつでも追悼の気持ちを寄せることができます。
◎気仙沼市復興祈念公園
住所:宮城県仙沼市陣山264
アクセス:三陸道気仙沼鹿折ICから車で約5分、浦島大島ICから車で約10分
JR気仙沼線BRT(バス高速輸送システム)鹿折唐桑駅から徒歩約15分
この日の午後は岩手県沿岸で過ごすことに決めていたので寄れませんでしたが、気仙沼には他にリアス・アーク美術館や気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館といった震災を伝える施設があります。
今回、東日本大震災伝承施設と嗜好品であるビールを合わせて書くことには、かなり迷いもありました。でもきっかけがビールであれ何であれ、まず東日本大震災について今より少しでも知ること、そして忘れないでいることが大事なのではないかと思い、その助けに少しでもなればと自分が訪ねた福島県・宮城県の行程を記事にしました。
車がないど行きにくいところもありますが、特にぜひ機会を作って東北の太平洋側沿岸のどこかを実際に訪ねてみていただければと思います。
*日付の記載がない写真は、全て2025年3月に撮影しています
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。