ビアジャーナリストアカデミー2期生卒論②(李珵寧)
BJA2期生の李です。
前回に続き、卒論の記事をアップさせていただきます!
②韓国のタップハウスの紹介です。
ソウルにあるクラフトビールのタップハウスを取材させていただきました。
文章が少し長いですが、最後まで読んでいただけますと嬉しいです!
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なお、本文の最後にあるリンクをクリックすると、卒論原本をご覧いただけます。
梨泰院(イテウォン)でクラフトビールとの出会い、Reilly’s Taphouse(ライリーズ・タップハウス)
ソウルの梨泰院(イテウォン)は、昔から米軍基地が近くにあり、多くのアメリカ人が暮らしている町としてよく知られていた。アメリカ他にもイギリス、ドイツ、トルコ、インドなど世界各国の人々が暮らしており、十数年前からは世界のおいしい料理が楽しめるグルメスポットとしても浮上している。この町を中心に韓国でもクラフトビールブームが起きようとしている。
梨泰院駅の2番出口から出て、徒歩1分の所にあるクラフトビール・タップハウス「Reilly’s Taphouse」(以下、ライリーズ・タップハウス)。韓国のタップハウスを代表するお店の一つだ。韓国のクラフトビールを含め、アメリカとドイツ、ベルギーのクラフトビールが常に30 タップ常備しており、瓶ビールも豊富に扱っている。
「韓国に来た時、韓国のビールは大手ビール会社のもが一般的だった。初めて韓国のビールを飲んでみて、みずみずしくてビールのおいしさを全く感じられないその味わいに大変失望した。ここでタップハウスをやるのは、むしろ韓国でクラフトビールをリードする機会だと思い、迷わずお店を立ち上げた」と語るのは、 ライリーズ・タップハウスのオーナーTroy M. Zitzelsberger(以下、ジチェールズバーガー)氏。彼はCicerone(シセロン)、アメリカ公認のビアソムリエでもある。ジチェールズバーガー氏のビール関連ビジネスパートナーが先に韓国でタップハウスを作ろうとしており、彼らと交流する中で韓国のビールマーケットについて理解したと言う。ジチェールズバーガー氏は韓国のビールはおいしくないものの、ビールマーケットはこれから十分成長できると判断した。そしてビジネスパートナーと一緒にKa-Brewでクラフトビールを造り、自分のお店も開いた。Ka-Brewの代表的なビールである「韓国の山の名前ビールシリーズ」(以下、山シリーズ)もジチェールズバーガー氏の手で造られた。ライリーズ・タップハウスには山シリーズ以外にもお店のオリジナルクラフトビールがある。実際にお店でケグ1個分の量を醸造し、Ka-Brewにて大量に醸造(ケグ100個分程度)してオリジナルクラフトビールを造っていると言う。
最もおすすめしたいビールは何かと聞いてみると、「私の『息子』である済州みかんIPAをおすすめするよ。自分で造ったのでもっと愛着がわくのもあるが、本当に良い原料を使って、伝統的な造り方と新しい造り方を上手く組み合わせてできたビールだから」と迷うことなく「my son」という表現を使ってビールを紹介する姿からビールへの熱い想いが伝わってきた。「済州みかんIPAを造る際、実際に済州島のみかんを使った。みかんの皮を沸かして入れたため、みかん本来の味わいと香りがビールにちゃんと反映されている。IPAとしての苦味もしっかり出ているが、ホップとみかんのシトラスフレーバーと甘味が豊かで、やさしい味わいに仕上げてくれるんだ。初めて飲んだ人のリピート率も高く、特に女性から人気が高い」と話した。一杯目は済州みかんIPAを頼んでみた。初めて口に含むと、みかんの爽やかな酸味が広がり、完熟したみかんの甘味に変わる。甘味の中からみかんの葉っぱのようなホップの苦味もしっかり感じられる。最後にのどを通る時は、甘味と苦味の絶妙なバランスですっきり終わり、飲みごたえも十分だ。これから出す予定のIPA(名前はまだ未定)もテイスティングしてもらった。強いホップの香りが鼻を刺激する。グレープフルーツ、みかん、オレンジでもなくライムのような酸味が、まさにデキーラを飲んだ後にライムをかじる時のような清涼感を持つ。酸味と苦味がシュワっと広がり、キリットした飲み口。パンチの効いたアメリカンIPAだった。
話を進めていくうちに、私はどんなに忙しくても必ず専用のグラスとコースターが出されることに気が付いた。そこでビールを出す際に最も大事にしていることは何か?と聞いてみた。「何よりも大事なのは『保管』(storage)だね。ビールは日光と熱すべてから影響を受けやすい。例えば、いくら頑張って造ったビールでも日光にあたってしまうと、味が変わってみずみずしくなり、品質が落ちてしまう。私が造ったビールが私の求める味わいを的確にお客さんに伝えるためには、保管する場所の管理を徹底することが必須なんだ。さらに保管だけでなく、サーバーのスキルとケグからタップまでつなぐラインの掃除、常に綺麗に洗ったグラスを使用することも大事。またグラスは、ビールの生産国、種類、温度に合わせて提供する必要がある。例えば、ベルギーのエールにはゴブレット形のグラスが最も合う。ビールを注いだ時に香りと泡が長持ちでき、人の手によってビールの温度が上がることを防いでくれるから。私はビールごとにグラスを持っており、必ずビールに合わせてグラスを出している。これらをすべて守らないと良質のビールは提供できない」と話した。「そして…」と話はまだ終わっていなかった。「私はビールと料理のペアリングも大事に思っている。まずは自分で食べてみて、一番料理に合うビールを探して提案しているんだ。料理も季節ごとに変えている。メニューを見ると料理の下に最も理想的なビールをペアリングしている。ペアリングはビールの生産国、飲み頃の温度などを考えて決めることが重要だ」。
突然、ジチェールズバーガー氏に「ほら、こっちにおいで」と言われ、付いて行った先はカウンターの隣だった。扉を開くと、棚の上にある二つのプラスティックバケツが目に入った。「今、今後出す予定の新しいビールを造っているんだ。ゴールデンピルスナーとチョコレートライ麦モルトを使ったチョコレートスタウトだ。ビールは細かい所まで気を配らないと造れない。水質硬度計、比重計、温度計を使って、ビールが適切なコンディションを保つようにしている。今度来たら、ぜひ試してみて」。済州みかんIPAに続き、ジチェールズバーガー氏の新たな子どもたちがお客さんの前にデビューする日をひっそりと待っていた。どんな味わいに仕上がるのか次回が楽しみだ。
最後に今後の目標を聞いてみた。まずはソウルに支店をいくつか出して、ビールのおいしさをもっとたくさんの人に知ってもらうこと。その後は韓国全国に自身の造ったビールを供給できればと言う。「もっともっと野望を言うと、この韓国で造ったビールを日本を含めて世界に出したい。頑張ってみる!」とジチェールズバーガー氏は微笑んだ後、「Cheers!」と一緒に乾杯した。韓国にもこんなにビールを愛し、おいしいビールを造ろうとしている人がいると思うだけで心強くなる。お客さんが多くて店が混んでもジチェールズバーガー氏はビールについて聞いてくるお客さん一人ひとりに対して、常に丁寧に説明していた。むしろ色々聞いてくれるのが嬉しいと話した。
ソウルへ旅に出るなら、夜は梨泰院に足を運んでみてはどうか?ソウルとクラフトビール。一見、合わないような二つの単語が混ぜ合うライリーズ・タップハウスへ。おいしい韓国のクラフトビールを飲みながら過ごすひと時は、きっとソウルの特別な思い出になるに違いない。
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これからも韓国のクラフトビールやテイスティングレポートなどを書かせていただきますので、
今後ともよろしくお願いいたします!
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。