コンテンポラリー・ヨーロピアン・ビア・セッション(イベントレポート)
目次
世界は今刺激しあっている
世の中のスピードがどんどん早くなっている今日、ビールの世界も激動している。特にアメリカではクラフトビールの勢いがとどまる事を知らない。2012年のVolume Shareでシェア6.5%を占め、いずれ近いうちには10%を超すと言われている。日本でもクラフトビールブームの波は確実に来ており、毎週のように開催されるイベントを追いきれないと嘆くビアラバー達もいるが、それでもシェアは1%にも満たないのだ。アメリカの情熱たるや凄まじいものがある。
さて、そんなアメリカのクラフトビールがいま注目しているのが、ヨーロッパのビールである。
世界的な流れもあり、現在日本では国産やアメリカの醸造所を中心としたクラフトビールが非常に人気を博しております。そんな中でマーケットを牽引するアメリカではヨーロッパのビールを再評価する動きが現れています。(本イベント告知より抜粋)
このイベントでは、「フランス」、「スイス」、「イタリア」、「ベルギー」の4カ国のビール約40種類を味わうことができた。
アメリカも注目するコンテンポラリー(現代的)なビールとは何か? それを強く意識したビールたちを堪能してみたい。
4つの国、1つのプレート
〜各インポーターの出展ビールと料理〜
<フランス(F.B.ジャパン)>
○知られざる「ビエール・ド・ギャルド」
フランスといえばワイン。有名なブルゴーニュやボルドーは、フランスの中・南部に位置する。今回F.B.ジャパンが出展したビールは、パリよりも北、ベルギーと隣り合う地域のビール。つまり、かなり寒い地域のビールになる。ワインはテロワールを非常に重要視するが、ビールの場合は世界中で育てられる「麦」が原料。ブドウに恵まれない地域ではビール醸造が盛んになったのだろうか。
「ビエール・ド・ギャルド」は、フランスを代表するビアスタイルである。「冬の間にビールを仕込み、木樽で発酵させてセラーで貯蔵(ギャルド)させて」いたビールをこう呼ぶ。その存在は昔から知られていたが、日本でこのスタイルが飲める機会は滅多に無かったものだ。
今回テイスティングしたのは『ANOSTEKE IMPERIAL STOUT(アノステーケ・インペリアル・スタウト)』。
驚くほど真っ黒で、光にかざしても向こう側が透けてみえない。香りがとても良く、スモーキーでもあり、深いコーヒーのようでもある。一口飲むと、がっつりとした濃いモルトフレーバーが広がる。高いアルコールが鼻に抜けるとき、ふわっと柑橘系のホップの香りとエスプレッソコーヒーの香りが入り交じり、大人の気品を感じる。スイスイ飲める口当たりの良さはビエール・ド・ギャルド製法のおかげ。
「50〜60種類のビールを取り寄せて皆で試飲し、最終的にはプロの方の舌で決めたんです。」とF.B.ジャパンの石川代表。「フランスからビールを輸入するに当たって苦労したのは、フランス人は積極的に売ろうとしないことなんですね。いまの商売で十分だと。だから、フランスにはまだ世に出ていない素晴らしいビールがあるかもしれないですね。」
今後、まさにワインの本拠地であるボルドーやブルゴーニュへもビールを探しに行くという。その昔マイケルジャクソンがベルギービールを世に広めたように、フランスビールのエヴァンジェリストとなる日が来るのではないかと期待してしまう。これからも目が離せない。
<スイス(The Counter)>
○スパイシーなニュー・ベルジャンの風
東京では、「BFM」のおかげでスイスビールはかなり浸透してきたと感じる。BFMといえば、ビール界の「スパイスの魔術師」ジェローム氏が手掛けるビールが有名(というよりジェローム氏が全てのビールを手掛けている)だが、今回は一風変わったセゾン『Saison √225(セゾン・クインディチ)』をテイスティングした。
セゾンと言えばベルギー発祥のホッピィな喉越し重視タイプ、と思いきや、このクインディチは違う。予想を裏切るブレタノマイセス系の酸味。口を付ける前から酸っぱい香りがするので、いくぶん予想はできるものの、サワー系のセゾンとはまさかである。ベルギーでもCuvee Mam’zelle(キュベ・マンジール)のような不思議な酸味の味わいを持つ現代的ビールがあるが、製法的には似るもののベースのビールの質が違うため、全く新たな味が展開する。後味には苦味でキレを感じさせ、飲み飽きることがない。
- BFM
Brasserie des Franches-Montagnes。スイス北西部ジュラ州の醸造所。1997設立。代表作「ラ・メッル」はセージを使ったビール。
日本語での紹介はThe Counterサイトへ。
<料理>
今回用意された食事の中で異彩を放っていたのが、『くまさんプレート』だ。
燻製品専門店「風の仕業」がプロデュースするワンプレートの薫製セット。sansa橋本氏の「価格では計れない探究心」に共感し、今回協賛頂けたとのこと。燻製の濃厚な風味が、セッション出展ビールたちの複雑なフレーバーにとても良くマッチ。おつまみを超えた料理として、イベントの賑わいの中に風格を醸し出していた。
<イタリア(The Counter)>
○イタリアの酸っぱいビール
ビールを愛してやまない人たちを「Beer Lover」と称するが、イタリアのサワーエールを造る醸造所の名前は「Lover Beer」である。実はこれ、英語のラブではなく醸造家の名前で”ロベール”というそうだ。それにしても良い名前。
今回The Counterの杉山氏が持参した3本のビールは、スペシャルビールとして限定で提供された。「『Madamin(マダミン)』はフレンチオークで発酵させた基本のサワー。それをさらにオーク樽で寝かせたものが『dama Brun-a(ダーマ・ブルーナ)』。『d’uva Beer(デュヴァ・ビア)』はピエモンテ州の赤ブドウの果汁を加えて熟成したものです。」他にも、バルベーラ(イタリアンワインで用いられるブドウ)を使ったビールなどを造っているとのこと。もともとワイン造りの土壌があるイタリアならではのサワーだ。
今回は『Madamin』をテイスティング。口当たりはまろやかながら、酸味はシャープ。乳酸菌発酵の酸味だ。舌で転がすと秘めていたフルーティな味わいが表れる。後味にはわずかながら苦味とブレッティな風味が感じられる。ビールよりもワインに近いイタリアンサワー、味わいの広がりを期待させる一品だ。
<ベルギー(大月酒店)>
○最古参が挑戦する現代的解釈
「他の国ではエイジド(樽で長期熟成)が流行りはじめているけれども、ベルギーでは随分昔から樽や瓶で長期熟成させていました。」とは大月酒店の沖氏。現代ビールがようやく追いついてきた地点に、ベルギーはもう何百年も前から到達していた。それだけに、ベルギーでは「昔ながら」のビールだけが今も造られていると思われがちだ。しかし、アメリカがベルギーをリスペクトするように、ベルギーにもアメリカを意識したビールや、濃厚なだけではない現代的なビールが造られるようになってきているという。
「今回選んだ基準は、定番のスタイルと現代的スタイルの比較を意識しています。例えば、『ホーガルデン ウィット(ヒューガルデン ホワイト)』と『ヤンドゥリヒトゥ』、『デュベル』と『デュベル トリペルホップ』、『ドリー・フォンティネン』と『ティルカーン』」。いずれも後者が「現代的スタイル」なわけだが、今回はイチ押しの『ヤンドゥリヒトゥ』をテイスティングすることにした。
ベルジャンホワイトといえば、ほのかな甘みとフルーティな香りを特徴とする飲みやすいスタイル。ヤンドゥリヒトゥはベルジャンホワイトには珍しく小麦麦芽を用いており(通常のホワイトは製麦していない生小麦のみ)度数も高く、「ダブルホワイト」を名乗る。先の特徴はそのままに、味わいをより強くしたものだ。トップから香る華やかで強い香りは花畑にいるように濃く、舌に感じる甘みはミルキーですらある。しかし、決してお腹いっぱいになる味ではなく、すうっと体に溶けていくようで、何杯でも飲めてしまう。現代的ビールを特徴づける、ホップにより描かれたフィニッシュのドライ感がそうさせるのだろう。これがアルコール7%とは恐ろしい。コンテンポラリーを味わおう
ビールは数千年の歴史を持つ飲み物だが、近代までその繁栄の地は、ヨーロッパ諸国、特にイギリス、ドイツ、ベルギーに限られてきた。ヨーロッパはビールの祖国である。しかし、ヨーロッパでも比較的温暖な国々では、ビールよりもワインを選んできたのが実際のところだ。
それがいま変わりつつある。
ワインの国と思っていた「フランス」や「イタリア」で想像力豊かなビールが生まれている。何か、日本酒の国でビール造りが盛んになっている様子と通ずる。
フランス、イタリア、そしてドイツに挟まれる「スイス」では、類稀なセンスでビールにスパイスを調合するブルワーが存在する。
そして言わずと知れたビールの聖地「ベルギー」では、伝統的なスタイルに現代的な解釈を行って新たなビールを造り出している。
コンテンポラリー(現代)なビールとは何か? 機会あらばぜひこれらの現代的ビールたちを堪能し、その問いに対する答えを感じ取って頂きたい。
インフォメーション:
燻製品専門店「風の仕業」http://www.kazenoshiwaza.com/
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。