台湾のビールは薄いのか?(4)Jolly―ビアエッセイ
台北の道路はバイクで埋まる。
台北のビアバーめぐりも今日で終わり。昼間の所用は思ったより時間がかかってしまい、自由になった時には20時頃になっていた。週末でもあり、店はもう混み合っているだろう。早く店に行きたいし、かなり疲れていたこともあり、店まではタクシーで行くことに。運転手に「Jolly」と店の名前を言ってもわからないだろうと思い、最寄駅のMRT南京東路駅までと伝えた。
「南京東路站!」
焦っていたせいか、ぶっきらぼうに言ってしまったのは否めない。乗車して少しすると、運転手が、
「大陸か?」
と、聞いてきた。お前は「台湾人」ではなく「中国人」か? ということだ。相手に嫌悪感を示すような言い方でもなく、かといって歓迎するでもない、ニュートラルな言い方だった。
「いえ、日本です」
「日本か…」
そう言うと、タクシーが南京東路駅に着くまで沈黙が続いた。信号で停まる度にバイクが横を通り過ぎ、前方もバイクで埋まっていた。この沈黙をどうにかしたいという気持ちと、早くビールを飲みたい気持ちが相まって、タクシーに乗っている時間が恐ろしく長く感じられた。
「Jolly」に着いた頃には20時半を過ぎていただろうか。やはり店は混み合っていた。入口で1人ということを告げると、店員さんは店の予約状況を確認しているのか、手元の紙を見てしばらく黙ってしまった。1人だと伝えたものの、もしかして自分の存在に気づいていないのか? と思い始めたら、
「21時半までになるけど、それでもいい?」
店にいられる時間は1時間程度だが、まったく問題ない。
「大丈夫です」
連れられた席は自分1人にも関わらず4人席で、まわりはコンパをしているような若者たちに囲まれていた。本当はカウンターに座りたかったのだが仕方ない。
もちろん注文するのはテイスティングセットだ。「Jolly經典啤酒組合」の6種類セット(290元=約1,015円)。「ピルスナー」「ペールエール」「スタウト」「スコッチエール」「ヴァイツェン」が定番で、もう1種類がシーズナル。そのシーズナルが何なのかは、店員さんが説明してくれたようだったが、早口でまったく聞き取れず。「愛爾(エール)」だけは聞き取れたような気がするのだが。
この「Jolly」は、台湾クラフトビール界の草分け的存在でもある。いつから営業しているのかはわからないが、タイ料理とクラフトビールの店として少なくとも2006年にはすでに営業していたようだ。日本でもクラフトビールの認知度は高くなかった頃だ。しかも、「Jolly」は恐らく台湾唯一のブルーパブ。台湾は自家醸造が違法ではないようなので、「恐らく」と付けておくが、「Jolly」は現在台北市内に3店舗を抱えるまでになっている。
明日の今頃はもう日本か…と思いながらビールを飲んでいたが、今のこの状況が日本とそれほど変わらないような気もしていた。台湾っぽくない、ということではない。今回の訪台でまわった3軒のビアバーは、それぞれ特徴があるものの、日本で飲んでいるような感覚があった。恐らく、これはヨーロッパやアメリカのビアバーで飲む感覚とは違うのだろうと思う。
その感覚が何なのかわからないままだったが、気分は悪くない。14年経って再訪した台湾で、自分の好きなビールを楽しめるのだ。今回はビアバーめぐりのために訪台したわけではないので仕方ないが、他にももっと行きたいビアバーがあるのに行けなかったのは心残りだ。でも、台湾は近いし、また来ればいい。その時には台湾のクラフトビールももっと盛り上がっているだろう。
1時間というのはあっという間に過ぎるものだ。店員さんに言われるまでもなく、ビールを飲み干して店を出た。店員さんからもう時間だとも言われていないが、自分から店を出た。もうこの店にいたくないというわけではない。が、自分でも不思議なくらい「よし、帰ろう」という気持ちになっていたのだ。
なんとなく、またこの店には来るだろうなと思っていたからだろうか。
台湾のビールは薄いのか?(1)プロローグ―ビアエッセイ
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