ドイツの最新ビール事情
ビールの巨人がついに目を覚ましてしまった。
ドイツのビール界に変化が起きている。
頑なまでに自分たちのビアスタイルだけを愛していたドイツが、他国のスタイルにも目を向け始めたのだ。
ビールの都と称されるミュンヘンでその先陣を切ったのは
昨年11月にナイトクラブが多いオストバーンホフ(ミュンヘン東駅)にオープンした
「Tap House Munchen」だ。
特徴はなんといってもその種類の豊富さ。
40種類のタップ、200種以上のボトル、4種の木樽熟成ビールを扱う。
これまでにミュンヘンにはなかった多様な味わいが好評で、連日深夜まで賑わっている。
店の戸をくぐるとまず目に飛び込んでくるのはL字形の長いバーカウンターとずらりと並ぶビアタップ。
黒板には本日のラインナップが40種類。
アンバーエールやスタウト、IPAなどのドイツ以外のビアスタイルも揃っている。
店の突き当りにある2台の巨大冷蔵庫では
200種類以上のボトルがスタンバイ。
その隣には4つの蛇口が打ち込まれたオーク樽。
ボックやインペリアルスタウトなどの比較的アルコール度数が高いビールを、ラムやバーボン、コニャックなどの古樽で熟成させたものが、グラビティ(ガスを使わず重力でビールを出す方法)で注がれる。
ほとんどのビールは丸いフォルムのワイングラスに入れられて運ばれてくる。
ビールの香りはグラスいっぱい広がり、口を付けると鼻にダイレクトに飛び込んでくる。喉越しだけでなく、香りを楽しませるための舞台だ。
ビアバーを後押ししているCamba Babariaはミュンヘンの東南にある2008年創業の醸造所で、ドイツスタイル以外のビールも積極的に造っている。
店には米国やベルギーからの輸入ビールもあるが、扱うビールのほとんどがドイツ国内の醸造所で造られたものというから驚きだ。
ここ4~5年で現在ドイツ国内でも、多様なスタイルのビールを造るところが増えている。
公式にIPAを造る醸造所だけでも12か所。いや、まだ12か所と言うべきか。
これからその数は増えるだろう。
醸造の基礎ができているドイツが造るビールは、優等生的に美しい。
体幹と基礎練習ができているスケート選手は、どんなに困難な技でも涼しい顔でこなしてしまうのだ。
ドイツビールの特徴でもあるドリンカビリティ(何杯でも飲めてしまうこと)は踏襲しつつ完璧に仕上げてくる。
ビールの巨人が進撃してくる。
EUの関税障壁になるとしてドイツビール純粋令の壁を取っ払ってしまったヨーロッパの国々は、自ら恐ろしい巨人を解き放ってしまったことにそろそろ気付いている。
世界的コンペティションでドイツが他国のビアスタイルの表彰台に登る日もそう遠くないはずだ。
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