ビアポエム(10)アヴェンティヌス・アイスボック
暑いときに食べるバニラアイス。濃厚なミルクの味わいは格別だ。では昼間に食べるのがアイスなら、夜に飲むのは何だろう。それはもちろんビールでしょ。じゃあ銘柄は何と尋ねたら、例えばアイスボックなんてどうだろう。世界でも珍しいフルーティな氷結ビールをこの夏に堪能したい。
アイスボックというスタイルを耳にしたことがある方は多くないかもしれない。アイス?冷たいビール?凍ったビール? 実は半分当たりである。
とにかく製法が独特。専用のタンクを用いてビールを醸造した後、なんと、じわじわと凍らせる。そして表面が凍ったところから、その氷の部分だけを取り除き、また凍らせる。この、凍らせては取り除きを2週間繰り返すことで、どんどんビールはアルコールが強くなるのだ。なぜか? 水とアルコールを比較すると、アルコールのほうが氷点が低い(つまり、温度を下げると水が先に凍る)。なので、凍って取り除かれるのは、アルコールではなく水分。それゆえ、氷を取り除けばアルコール度数が高くなるという仕組み。このアヴェンティヌス・アイスボックは最終的に12%の高濃度にもなる。
その昔、ある業者がビールを誤って凍らせてしまったのだが、それを飲んでみると大層美味しかったという話をヒントに、シュナイダーの醸造士が試行錯誤の末に氷結ビールを完成させたとも言われている。
通常、醸造では酵母にいかに糖を分解させてアルコールに変えるかという度合いで度数が決まるものだが、酵母の働きではない方法でアルコール分を高める(生み出しているのではなく濃縮している)という試み。それは邪道だろうか? いや、飲んでみればそのうまさに感動するだろう。
・・・tasting
泡は白く絹のようで、その下にあるダークブラウンのどっしりとしたボディに載るクリームのよう。熟したバナナ、バニラを思わせる甘い香り。脂肪分の高いバニラアイスに焼き目を付けたような味わい。デザートを食べている感覚。小麦の甘さが際立ち、アイスボックというクラシカルなスタイルながら、鈍重な印象はしない。むしろ12%もの高い度数で、ホップの苦味に頼らずここまでキレがあるのは素晴らしい。製法上、なかなかどこの醸造所でも作れるというものでもないだろうが、アイスボックは現代のデザートビールとしてのポテンシャルは高いと思う。もっと知られてもよいビールだ。
シュナイダー社は1872年にミュンヘン・ホフブロイハウスより独立。ビール純粋令を守りながら、伝統的なヴァイセやホップの香りが印象的なTAP5など、数多くの製品をリリース。
余談だが、私が海外のビールにはまったきっかけがこのビール。かれこれ10年ほど前、当時はまだ珍しかったビアバーで「変わったものが飲みたい」というリクエストでマスターに出してもらったのがこのアイスボックだった。飲んだ瞬間、頭の中のビールのイメージを一変させた一杯。それが今この記事を書いている自分につながっていると考えると感慨深い。
今年の夏、クーラーの効いた部屋でじっくりアイスボックを楽しむのも乙なものだと思案中。
Aventinus Eisbock, Schneider & Sohn, 12%
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